PubMedID 33771928
タイトル Evolution and insights into the structure and function of the DedA superfamily containing TMEM41B and VMP1.
ジャーナル Journal of cell science 2021 Mar;.
著者 Okawa F, Hama Y, Zhang S, Morishita H, Yamamoto H, Levine TP, Mizushima N
  • TMEM41BとVMP1を含むDedAスーパーファミリーの進化と構造予想
  • Posted by 東京大学 大学院医学系研究科 濱 祐太郎, 大川 典哉, 張 思迪
  • 投稿日 2021/04/05

突然ですが、オートファジーはどのようにして生まれたのでしょうか?
その問いの解明に向けた、私たちの最近の論文を紹介させていただきます。UCLのTim P. Levine博士と共同で行った研究です。
 
私たちは2018年に小胞体膜タンパク質TMEM41Bがオートファジーに必須であることを報告しました(PMID: 30093494)。TMEM41BやVMP1と相同性のある真核生物と一部の原核生物のタンパク質に存在するドメインとして、「VTT(VMP1, TMEM41, Tvp38/TMEM64)ドメイン」を提唱しました。しかし、VTTドメイン含有タンパク質の進化的関係性を十分に記述できず、それが心残りでしたので進化に着目した解析を継続しました。

遠縁のホモログまで網羅的に同定して系統解析を行った結果、TMEM41BやVMP1の遠縁ホモログ群は、バクテリア由来する4つのファミリー(TMEM41、VMP1、DedA、PF06695と命名)を構成することがわかりました。中でもDedAファミリーが最も早く報告されていたことから、全体の集団を「DedAスーパーファミリー」、それを特徴づける共通ドメインを「DedAドメイン」と命名しました。これをもって、VTTドメインはDedAドメインに修正・統合し、分野での混乱を防ぐためにVTTという名前は今後使わないこととしました。
 また、哺乳類DedAスーパーファミリータンパク質はTMEM41BとVMP1の他にも、TMEM41AとTMEM64があります。出芽酵母にはTMEM41BもVMP1もなく、Tvp38(TMEM64ホモログ)のみがあります。しかし、これらはオートファジーには必要ないことがわかりました。
さらに、DedAドメインの構造を共進化的手法で予測すると、2つのリエントラントループ(膜内ヘリックスの折り返し)が向き合った構造を取っていることが予測されました。この予測構造の妥当性(膜トポロジー)を、置換システインアクセシビリティ法(SCAM)によって生化学的に確かめました。DedAドメインと比較的似た構造が他のイオン共役型膜輸送体に見られることから、TMEM41BやVMP1も何らかの分子の輸送を通じて、オートファゴソーム形成などの多彩なプロセスに関与している可能性があります。

今回の解析で、TMEM41BとVMP1がいずれもオートファジーを持たない原核生物に由来していることがわかりました。これらの祖先タンパク質は原核生物の細胞膜に局在していたと考えられますが、どのようにしてオートファジー機能を獲得したのでしょうか?一つの可能性は、TMEM41BとVMP1のそれぞれの祖先の原核生物での機能がそのままオートファジーに流用されるようになったというもの、もう一つの可能性は、先にVMP1がオートファジー機能を獲得し、それに結合するTMEM41Bが後から付随的に機能を獲得したというものです。これを考察する上で、植物や細胞性粘菌のようなオピストコンタ以外のTMEM41ホモログがオートファジーに必要かどうかが重要な情報になります(これらの生物を扱っている先生方、ぜひお願いします)。この謎を紐解くことは、オートファジーの起源を理解することにも繋がっていくと期待しています。

最後に、本研究の裏話です。バクテリアのDedAファミリータンパク質の構造がLeuT/Neurotransmitterと相同であるという報告があったため、テンプレートベースでTMEM41Bの構造予測に挑戦していましたが、全く上手くいっていませんでした。そんなある日、共著者のTim. P. Levine博士から(突然)水島さんに個人的な連絡があり、VMP1のHHsearchでPF06695ファミリータンパク質が同定できること、そしてその予測構造が、GREMLINのデータベースに公開されていることを教えていただきました。GREMLINは共進化的手法でコンタクトマップを作成するサーバーですが、いくつかのバクテリアのタンパク質については、既に予測された構造がアップロードされているようでした。そのデータベースを細かく調べると、私たちがTMEM41Bの遠縁ホモログとして同定していたDedAファミリータンパク質YqaAの予測構造も公開されており、しかもPF06695ファミリータンパク質とほぼ同じ構造をしていました。このことから、TMEM41Bなど真核生物のDedAタンパク質についても、共進化的手法で構造予測ができるだろうという手応えを得たのが、構造予測パートの始まりでした。
 張さんの尽力でTMEM41Bについて期待通りの(PF06695やYqaAとほぼ同じ)予測構造が得られ、その妥当性を大川くんが生化学的実験で確かめました。ちょうどその頃、別のグループからbioRxivにほぼ同じ予測構造を出している論文(PMID: 33520197)がアップロードされました。これを受け、急いで今回の論文をまとめました。
 
系統解析に用いたGraph Splittingと構造予測に用いたtrRosettaは、どちらも2020年に発表された最新の解析手法です。また、様々な生物のゲノム解読やトランスクリプトーム解析が盛んに行われてきたおかげで配列データベースも充実しており、これも本研究には不可欠でした。このように近年急速に発達している配列解析技術や配列データベースを上手く活用すれば、タンパク質の進化や構造をある程度予想することができます。そこから課題を抽出することが、大きな発見をもたらすかもしれません。

今後は、私たちとしては、DedAドメインの予測構造やそこから予想した機能が正しいかどうか、そしてその進化的変遷をIn vitro実験を中心に検証していきます。