PubMedID 33472058
タイトル N-methyladenosine (mA) is an endogenous A3 adenosine receptor ligand.
ジャーナル Molecular cell 2021 02;81(4):659-674.e7.
著者 Ogawa A, Nagiri C, Shihoya W, Inoue A, Kawakami K, Hiratsuka S, Aoki J, Ito Y, Suzuki T, Suzuki T, Inoue T, Nureki O, Tanihara H, Tomizawa K, Wei FY
  • N6-メチルアデノシン(m6A)はアデノシンA3受容体の内在性リガンドである
  • Posted by 東北大学加齢医学研究所 魏 范研
  • 投稿日 2021/04/12

最近Molecular Cell誌に掲載されました私たちの研究を紹介させていただきます。

RNAにはすべての生物を合わせて100種類以上の転写後修飾が存在し、RNAの細胞内局在や安定性などRNAが正しく機能する上で不可欠な調節機構であることが明らかになりつつあります。一方、転写されたRNAはいずれ寿命を迎え、リソソームなどに代表される細胞内分解系によってヌクレオシドあるいは塩基まで分解されます。修飾を含まないヌクレオシドはその後サルベージ経路によってRNA合成の原料として再利用されますが、修飾を含むヌクレオシド(以下、修飾ヌクレオシド)の代謝や生理機能に関しては研究されてきませんでした。今回我々は、RNA分解によって生じる修飾ヌクレオシドが生体内でどのような挙動を示し、どのような生理作用を有するかを中心的な問いに据え、研究を行いました。

まず、マウス、ウサギ、ヒトから血液や眼内液といった生体組織液を採取し、質量分析を用いて修飾ヌクレオシドの量と種類を網羅的に解析しました。その結果、細胞外液には多種多様の修飾ヌクレオシドが含まれ、また、体液中の濃度がnMオーダーからMオーダーまで多様であり、アデノシンなど未修飾のヌクレオシドよりも濃度の高い修飾ヌクレオシドも存在していることがわかりました。

未修飾ヌクレオシドはRNA合成の原材料としての機能以外に液性因子としての機能も知られています。特に細胞外アデノシンは、アデノシン受容体を活性化し、免疫応答や血液循環の調節といった重要な生理活性を有しています。我々は、細胞外修飾ヌクレオシドが何らかの生理活性を有するのではないかと考え、修飾アデノシンを中心にGPCRスクリーニングを行いました。その結果、N6-メチルアデノシン(m6A)が アデノシンA3受容体に対して高い活性化能を有していることがわかりました。その活性能は未修飾のアデノシンの約10倍以上も強力でした。さらに、in silicoのモデリングによって、アデノシンA3受容体の特定のアミノ酸残基がm6Aのメチル基と相互作用することで、m6AとアデノシンA3受容体との親和性を高めていることが示唆されました。アデノシンの生理作用が発見されて以来約90年振りに、内在性に存在しアデノシンよりも強力なヌクレオシドを見出したことになります。

m6Aは、mRNAやリボソームRNA(rRNA)などに豊富に含まれている修飾の一つであり、近年のRNA修飾研究の火付け役でもあります。我々は、安定同位体やさまざまな阻害剤を用いたトレーシング実験を行い、細胞外m6Aの由来及びその分解経路について検討しました。その結果、細胞外m6Aの大部分がrRNAに由来することがわかりました。また、過酸化水素といった細胞傷害性刺激は、リソソームにおけるrRNAの分解を介して、m6Aの細胞外放出を促進することがわかりました。さらに、マウスをモデル動物として生体におけるm6Aの機能を検討した結果、Ⅰ型アレルギーの誘導により血中あるいは組織液中の内在性m6Aの量が亢進することや、m6Aの投与がⅠ型アレルギー反応や炎症性サイトカインの転写を促進することがわかりました。

以上の結果により、RNA分解によって生じる修飾ヌクレオシドは細胞外に放出され、その中には刺激に応じて細胞外分泌が亢進し、液性因子として機能しうるものが存在することが明らかになりました。細胞外における液性因子としての修飾ヌクレオシドの研究は、まさに始まったばかりです。本研究を皮切りに、RNA修飾の包括的な理解が進み、様々な疾患の原因解明や治療開発へ繋がるよう、今後も精力的に研究を続けていきたいと思っております。

本研究は筆頭著者の小川亜希子さんを中心に、多くの共同研究者からご協力をいただきながら論文の発表に至りました。この場を借りてすべての関係者に厚くお礼を申し上げます。本研究の途中で、熊本大学から東北大学加齢医学研究所へ異動になり、ラボの立ち上げと研究の遂行の同時進行になりましたが、本新学術研究領域の公募研究に採択していただき、大きな力になりました。また、リバイス時にレフリーから返事が中々もらえず、何度もEditorに催促のメールを送り、もやもやしながら数ヶ月を過ごしたことは今となってはいい思い出です。

文責(魏)