PubMedID 34078910
タイトル NEK9 regulates primary cilia formation by acting as a selective autophagy adaptor for MYH9/myosin IIA.
ジャーナル Nature communications 2021 06;12(1):3292.
著者 Yamamoto Y, Chino H, Tsukamoto S, Ode KL, Ueda HR, Mizushima N
  • 繊毛形成を制御する新規オートファジーアダプターNEK9
  • Posted by 東京大学大学院 医学系研究科 山本 康博
  • 投稿日 2021/06/05

最近発表しました我々の論文を紹介させていただきます。今回我々は選択的オートファジーが一次繊毛の形成を制御する新規メカニズムを解明しました。
 繊毛は、細胞表面から突出した細胞小器官で原生動物からヒトに至るまで真核生物に広く保存された細胞小器官です。そのうち一次繊毛は非運動性で、細胞外の環境を感知して細胞内に伝えるアンテナとして働き、胚発生、細胞分化、臓器形成などにおいて重要です。一次繊毛が形成されるときには、細胞内のダイナミックな変化を伴いますが、今回、オートファジーがこの過程に重要であることを明らかにしました。
 我々は、オートファジーの新規選択的基質を同定する目的でオートファゴソームに結合するたんぱく質を網羅的に検索したところ、繊毛機能に関連することが示唆されていたNEK9を同定しました。さらに、NEK9は、一次繊毛形成の抑制因子であるMYH9と結合して、MYH9を選択的オートファジーによる分解に導くアダプターとして機能することを見いだしました。NEK9がオートファゴソームに結合できないようにした細胞を作製したところ、MYH9は分解されず、一次繊毛の形成が顕著に抑制されました。また、同様の変異を導入したマウスでは、腎臓の近位尿細管細胞の一次繊毛形成が阻害され、細胞が腫大しました。以上のことから、NEK9を介した選択的オートファジーによるMYH9の選択的分解は一次繊毛の形成に重要であると考えられました。
 オートファジーによる繊毛形成制御は哺乳類などの陸上脊椎動物だけにみられるので、この機構が腎臓の陸上生活への適応に重要であった可能性が考えられます。また、本研究成果は、オートファジーの生理的意義や、繊毛形成の異常を伴う疾患の理解につながると考えられます。
 私は東京大学大学院内科学専攻 (呼吸器内科学)に所属しておりましたが、一流の基礎研究を経験してみたいという動機から水島研究室で勉強させていただくことになりました。本研究は大学院博士課程2年目から3年間かけて取り組んだ研究課題です。私は基礎研究の全くの初心者であり、GABARAPL1の結合因子解析データを用いて「新しい選択的オートファジーの基質を何か見つける」という初心者にも取り組みやすいテーマを与えていただきました。同じ呼吸器内科の先輩でもある千野遥さんに助けていただき、NEK9が選択的オートファジーの基質であることを見つけ出すまでは比較的スムーズに進めることができました。しかし、NEK9が選択的オートファジーで分解される生理学的意味が何なのかを突き止めるのに1年以上を要しました。ブレイクスルーとなったのは共同研究者の塚本智史さんが作製して下さったNEK9 LIR変異ノックインマウスの表現型でした。各種臓器をノンバイアスに観察しましたが、腎臓の尿細管に明らかな異常が見て取れました。すでにNEK9の機能喪失変異ヒトでは一次繊毛の形成が阻害されているという症例報告があったことと、腎臓は繊毛病でもっとも表現型が出やすい臓器であるということから、NEK9のオートファジー関連機能はきっと一次繊毛形成に重要なのだと推測することができました。
また、進化的な解析を行ったところ、不思議なことに魚類のNEK9はLIRを持っておらず、陸上脊椎動物への進化の過程でNEK9はLIRを獲得したことがわかりました。魚類から陸上脊椎動物の進化の過程では腎臓に機能進化が起こっており、腎臓の繊毛も能動的に動き尿流を生み出すための動的繊毛から、センサーとしての機能を持つものの能動的には動かない一次繊毛に変化することがわかっています。このことから選択的オートファジーによってNEK9とMYH9を分解することは進化した陸上脊椎動物の腎臓が機能するために重要なのだと推測されました。
 私は全くの基礎研究の初学者であり、水島研究室の皆様には研究の取り組み方、研究者としてのものの考え方、物事を多面的に捉えるという姿勢の大切さなど様々なことを教えていただきました。好きなだけ実験ができ、多分野の研究者と自由に議論できる恵まれた環境で過ごすことができ、大変感謝しております。
 本研究は、東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学教室の上田泰己教授、大出晃士講師、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所生物研究推進室の塚本智史主幹研究員と共同で行いました。