PubMedID 35061008
タイトル Atg39 links and deforms the outer and inner nuclear membranes in selective autophagy of the nucleus.
ジャーナル The Journal of cell biology 2022 02;221(2):.
著者 Mochida K, Otani T, Katsumata Y, Kirisako H, Kakuta C, Kotani T, Nakatogawa H
  • Atg39の核内膜結合を介した核の一部の分解機構
  • Posted by 東京工業大学・生命理工学院(現 理化学研究所) 持田 啓佑
  • 投稿日 2022/02/23

最近J Cell Biol誌に掲載された私たちの研究を紹介させていただきます。

私たちは以前、Atg39をレセプターとする選択的なマクロオートファジーによって細胞核の一部が分解されること(以下、ヌクレオファジーと記します)を、出芽酵母を用いた研究で明らかにしました(Mochida et al, Nature, 2015)。ヌクレオファジーでは、細胞核からその直径10分の1程度の二重膜小胞が出芽し、オートファゴソームに隔離されたのち、分解されます。核外膜と核内膜の2つの膜で覆われた核の一部を分解するには、2つの膜を共に細胞質側に突出させ、小胞として縊り切るという複雑な膜動態を伴うことになります。また当然核内には染色体が存在するため、染色体を上手く避けながら核の一部を分解する仕組みも必要になります。しかしながら、こうしたヌクレオファジーの複雑な仕組みを支える分子機構については、「核膜上に存在するAtg39がレセプターとして働く」こと以外は殆ど何も分かっていませんでした。

一回膜貫通タンパク質であるAtg39には、Atg8などと相互作用する細胞質側ドメインと核膜内腔に露出した領域があります。私たちはAtg39の核膜内腔領域には長い両親媒性のαヘリックスが存在し、この領域が核内膜と相互作用することを見出しました。すなわちAtg39は、核外膜を貫通しつつ内腔側で核内膜とも相互作用するという変わったトポロジーで存在し、単独で2つの膜にアクセスできることになります。核内膜との相互作用部位を欠失させると、Atg39が核膜から小胞体に流出するとともに、Atg39の核膜上でのクラスタリングやヌクレオファジー活性にも欠損を示しました。両親媒性ヘリックスは曲率の高い膜領域を好むことから、部分的に隆起した核内膜領域を認識してAtg39をクラスタリングさせている可能性が考えられます。こうしたAtg39のクラスタリングはオートファジーの誘導と無関係にも起こりますが、隔離膜の形成が始まるとAtg8との相互作用に依存してAtg39分子がさらに高次集合しました。またAtg39を過剰発現すると、両親媒性ヘリックス依存的に核膜がチューブ状に突出した構造が形成されることから、隔離膜形成と共役して起こるAtg39の局所的な濃縮が核膜を細胞質側に突出させる作用を持つこと示唆されました。このようにAtg39の核内膜との相互作用は、(1)核膜への繋留、(2)Atg39の集積、(3)核膜のチューブ化、の3つの役割を持つことになります。突出した核膜領域が最終的には切り離され、二重膜小胞としてオートファゴソームに積み込まれることになりますが、この切り離しのメカニズムは分かっておらず、今後の課題となります。

またAtg39の過剰発現によって形成されるチューブ状構造には、核内膜や核質のタンパク質は観察されますが、染色体に関連するタンパク質は排除されていました。このチューブ状構造の細さゆえに、比較的大きな染色体は排除されて分解から逃れ、安全に核を分解することができるのだと考えています。

論文をまとめる間際に海外のグループから関連する内容がbioRxivに投稿され少し焦りましたが、大学院生の大谷君や勝亦君のデータと組み合わせ、彼らよりもメカニズムに踏み込んだ内容の論文として報告することが出来たと思います。論文をまとめるにあたりお世話になりました方々にこの場を借りてお礼申し上げます。