PubMedID 35113815
タイトル Lysosomal exocytosis of HSP70 stimulates monocytic BMP6 expression in Sjögren's syndrome.
ジャーナル The Journal of clinical investigation 2022 Mar;132(6):.
著者 Mo YQ, Nakamura H, Tanaka T, Odani T, Perez P, Ji Y, French BN, Pranzatelli TJ, Michael DG, Yin H, Chow SS, Khalaj M, Afione SA, Zheng C, Oliveira FR, Motta ACF, Ribeiro-Silva A, Rocha EM, Nguyen CQ, Noguchi M, Atsumi T, Warner BM, Chiorini JA
  • Lysosomal exocytosis of HSP70 stimulates monocytic BMP6 expression in Sjögren's syndrome
  • Posted by 北海道大学 名誉教授 野口 昌幸
  • 投稿日 2022/03/31

 シェーグレン症候群は口腔内の乾燥感を主徴とした自己免疫性の唾液腺炎で、いまだ詳しい病因が分かっておらず根本的治療法もないため、患者さんは慢性的な乾燥症状や口腔機能の低下に苛まれてきました。我々の研究グループでは、このシェーグレン症候群の病態生理を明らかとし、疾患特異的な治療アプローチを開発することを目的に研究を進めて参りました。

 過去にマイクロアレイという手法を用いてシェーグレン症候群患者の唾液腺に発現している遺伝情報を網羅的に解析したところ、健常な唾液腺と比べてlysosome-associated membrane protein 3 (LAMP3) とbone morphogenetic protein 6 (BMP6) という分子の発現が有意に亢進していることが分かりました。機能解析において、LAMP3は唾液腺上皮細胞のアポトーシスを誘導し (Tanaka T, et al. Sci Rep. 2020)、BMP6はアクアポリン5という唾液分泌に必須な水チャネルの発現を低下させる (Yin H, Arthritis Rheum. 2013) ことから、これら2つの分子の発現亢進がシェーグレン症候群の病態に深く関わっていることが明らかとなりましたが、ではいったいなぜシェーグレン症候群においてLAMP3とBMP6の発現が亢進しているのか、またLAMP3とBMP6の間にどんな関連があるのか分かっておりませんでした。

 本研究ではまず、シェーグレン症候群患者の唾液腺組織中においてCD68陽性の単球系細胞がBMP6を発現していることをin situハイブリダイゼーションによって明らかとしました。そしてBMP6の発現がtoll-like receptor 4 (TLR4) の刺激とその下流のMyD88経路によって誘導されることを示しました。続いて唾液腺、唾液、血清のプロテオミクス解析から、TLR4のリガンドのうちheat shock protein 70 (HSP70) の発現がシェーグレン症候群患者で増加しており、かつBMP6の発現と正の相関関係にあることを見出しました。LAMP3はリソソーム膜の透過性を亢進させ、プロテアーゼの細胞質内漏出、カスパーゼの切断を介してアポトーシスを誘導しますが、同時に細胞内へのカルシウム流入を引き起こしてlysosomal exocytosisと呼ばれるリソソーム内容物の細胞外排出を誘導することが分かりました。そしてLAMP3はこのlysosomal exocytosisによってHSP70の細胞外排出を促進していることを明らかとしました。唾液腺特異的にLAMP3を過剰発現させたマウスモデルにおいて、唾液腺に浸潤した単球系細胞のBMP6発現が誘導されており、またTLR4の阻害剤投与によって、BMP6発現の抑制かつ唾液分泌機能の回復が認められました。

 これらの結果から、今回我々はLAMP3を起点として、HSP70のlysosomal exocytosisを介して、単球系細胞のBMP6発現が誘導されるというシェーグレン症候群の病態生理を明らかとしました。この病態軸を標的とした新たな治療アプローチの開発を次なる目標として、さらなる研究を進めています。