PubMedID 35705033
タイトル Dynamic rearrangement and autophagic degradation of mitochondria during spermiogenesis in the liverwort Marchantia polymorpha.
ジャーナル Cell reports 2022 Jun;39(11):110975.
著者 Norizuki T, Minamino N, Sato M, Tsukaya H, Ueda T
  • 植物精子形成時のオルガネラ再編成におけるオートファジーの役割を解明
  • Posted by 基礎生物学研究所  法月 拓也
  • 投稿日 2022/06/20

最近Cell Reportsに掲載された私たちの論文を紹介させていただきます。

一部の植物は動物と同様に、鞭毛を有する雄性配偶子(精子)を形成します。そうは言いましても、動物と植物の有性生殖は独立に獲得された形質であり、精子につきましても、鞭毛の本数やオルガネラの構成など、動物と植物とではその特徴が大きく異なっています。中でも、コケ植物の精子はミトコンドリアが頭部と尾部に1個ずつ存在するという特徴的な性質を有しますが、ミトコンドリアが精子変態時にどのように再編成されるのかは不明でした。そこで私たちは、近年モデル生物として実験系が整備されている苔類ゼニゴケ(Marchantia polymorpha)を用いて、精子変態過程においてミトコンドリアの再編成がどのように起こるのかを調べました。

私たちの研究によって、ミトコンドリア分裂とオートファジーによってミトコンドリアの数が一旦1個(頭部ミトコンドリアのみ)になり、その後この頭部ミトコンドリアが不等分裂して、小さい方のミトコンドリアが尾部ミトコンドリアになるこが分かりました。また、オートファジーはミトコンドリア以外のオルガネラや細胞質の分解にも必要であることも明らかになりました。しかしながら、ミトコンドリアはペルオキシソームなど他のオルガネラの除去に先立って分解されていることが分かり、さらにオートファゴソームにミトコンドリアが選択的に取り込まれる様子も電子顕微鏡により観察されました。これらのことから、精子変態において、ミトコンドリアは他のオルガネラとまとめて分解されるのではなく、マイトファジーによって分解されることが示唆されました。

膜電位の消失やユビキチンの関与についても調べましたが、Mpatg5変異体で分解されず残存したミトコンドリアは膜電位を維持しており、ユビキチンの蓄積も見られませんでした。このことから、膜電位の消失やユビキチン化はゼニゴケ精子変態におけるミトコンドリア分解のトリガーではないと考えられます。酵母や動物で報告されているマイトファジーレセプターは植物に保存されていないため、植物独自のマイトファジーレセプターがこのミトコンドリア分解に関与する可能性があります。植物における選択的オートファジーの分子機構はまだ不明な点が多いのが現状です。コケ植物の精子変態では、他の植物や組織では見られないような大規模かつ精巧なオルガネラ分解が起こるため、本研究をさらに発展させていくことで、植物の選択的オートファジーの理解につながると期待されます。

現在は群馬大学の佐藤美由紀先生のもとで、線虫を用いて受精後の精子ミトコンドリアの挙動を研究しております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。