PubMedID 36044902
タイトル Ubiquitination of phosphatidylethanolamine in organellar membranes.
ジャーナル Molecular cell 2022 Aug;.
著者 Sakamaki JI, Ode KL, Kurikawa Y, Ueda HR, Yamamoto H, Mizushima N
  • オルガネラ膜脂質ホスファチジルエタノールアミンのユビキチン化
  • Posted by 東京大学 大学院医学系研究科 坂巻 純一
  • 投稿日 2022/09/01

 私たちが報告いたしました、ホスファチジルエタノールアミン(PE)のユビキチン化について紹介させていただきます。
 オートファゴソーム形成の過程で、ユビキチン様タンパク質ATG8(哺乳類ではLC3とGABARAPファミリー)は膜リン脂質PEと共有結合します。タンパク質と共有結合するユビキチンファミリーの中で、この様なリン脂質との共有結合はATG8のみに見られるユニークな特徴です。しかし、ユビキチンや他のユビキチン様タンパク質がリン脂質と結合するかはわかっていませんでした。
 私たちは、ATG8結合系とユビキチン結合系の反応と基質構造の類似性(ユビキチン化されるリジン側鎖は-CH2-CH2-CH2-CH2-NH2、PEの極性ヘッドグループは-CH2-CH2-NH2)より、ユビキチンもPEと共有結合するのではないかと考え、研究を始めました。まず、ATG8-PE発見論文に倣い、Triton X-114を使った二層分離で疎水性ユビキチンを精製したところ、ホスホリパーゼDで切断されうるユビキチン結合体の存在がわかり、質量分析法によって結合相手がPEであることを確認しました。さらに解析を行い、出芽酵母やヒト細胞のエンドソームや液胞(リソソーム)のPEがユビキチン化されていることを発見しました。PEのユビキチン化はタンパク質のユビキチン化と同様の反応によって触媒されており、ユビキチン活性化酵素Uba1、ユビキチン結合酵素Ubc4/5、ユビキチンリガーゼTul1が一連の反応を担います。Tul1はエンドソームと液胞の膜に存在することが知られており、PEユビキチン化の空間的制御はTul1の局在によって主に決定されていると考えられました。PEと結合したユビキチンは、脱ユビキチン化酵素Doa4により除去されるか、あるいは液胞へ運ばれて分解されます。ユビキチン化PEは膜の変形や切断に関与するESCRT複合体と結合し、intraluminal vesicle形成に関わる可能性を示唆しました。さらに、ユビキチン類似タンパク質であるNEDD8やISG15もリン脂質と共有結合することが明らかになりました。以上の結果より、リン脂質との共有結合はATG8に特異的なことではなく、ユビキチンとユビキチンに似たタンパクが持つ一般的な特徴であることが示唆されました。
 今回、オートファジー研究の知見を基に、ユビキチンの新しい機能を発見することができました。哺乳類細胞での解析があまりできていないなど(ユビキチンリガーゼTul1が後生動物には保存されていなかったのが理由です)、やり残したことがたくさんあるので、現在取り組んでいるところです。
 本研究では、水島さんを初め多くの方々のご尽力を賜りました。ユビキチン-PEの質量分析は大出晃士さん、栗川義峻くん、上田泰己先生、電子顕微鏡解析は石田陽子さん、齊藤知恵子さんと共同で行いました。山本林さんには数多くの助言をいただき、ほとんど扱ったことのない酵母での実験を教えていただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。