PubMedID | 36107218 |
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タイトル | Targeting the ATG5-ATG16L1 Protein-Protein Interaction with a Hydrocarbon-Stapled Peptide Derived from ATG16L1 for Autophagy Inhibition. |
ジャーナル | Journal of the American Chemical Society 2022 Sep;. |
著者 | Cui J, Ogasawara Y, Kurata I, Matoba K, Fujioka Y, Noda NN, Shibasaki M, Watanabe T |
- ATG5-ATG16L1複合体のタンパク質間相互作用を阻害する新規Stapled Peptideの開発
- Posted by 北海道大学遺伝子病制御研究所 小笠原 裕太
- 投稿日 2022/09/21
先日Journal of the American Chemical Societyに掲載されました私たちの論文を紹介させていただきます。
今日までに報告されている疾患とオートファジーに関する研究から、オートファジーが癌や神経変性疾患といった様々な疾患に関与していることが明らかになりました。そのためオートファジーの制御を介した治療法の開発が注目されており、オートファジー阻害剤であるhydroxychloroquine (HCQ)が様々な癌の治療薬として第I相または第II相試験まで進められています。しかしながら、HCQは特異的なオートファジー阻害剤ではなく高用量での長期使用により不可逆的な網膜毒性を引き起こすことが報告されています。このような副作用による課題は他のオートファジー阻害剤であるBafilomycin-A1や3-methyladenineなども同様であり、より良い治療薬の開発のためには高い特異性を持つオートファジー阻害剤の開発が必要だと考えられています。この課題を解決するためには、主要なオートファジー関連タンパク質複合体のタンパク質間相互作用(PPI)を阻害するような分子の開発が有効な戦略だと考えられます。そこで微生物化学研究所の有機合成研究部(渡辺研)と構造生物学研究部(野田研)が共同でATG5-ATG16L1複合体形成を標的とした阻害剤の開発及びin vitroおよび細胞レベルでの機能評価を実施しました。
ATG5-ATG16L1複合体の結晶構造からその相互作用にW-x3-I-x3-L-x2-R-x3-Q motifが重要であると考えられたため、この配列をベースに阻害Peptideのデザインが行われました。また細胞内での安定性の向上を目的としてStapled Peptideも作成されました。In vitroでのITC assayとProtease Resistance Studyの結果からi, i + 4のStapled PeptideであるPeptide (10)がAtg5にKd値が数nMという強い親和性で相互作用し、さらに高いプロテアーゼ耐性を持つことが示唆されました。実際にGFP-LC3を安定発現するMEF細胞にPeptide (10)を処理するとGFP-LC3の形成するdotの数が優位に減少すること、さらにChloroquineを用いたAutophagy flux assayの結果からオートファジー活性が阻害されることが明らかとなりました。またPeptide (10)処理細胞においてATG5-ATG16L1の相互作用が阻害されていることも確認できており、デザインした通りのATG5-ATG16L1のPPIの抑制を介したオートファジー阻害が達成されたことが明らかとなりました。Stapleの適切な配置により直鎖状のNonstapled peptideと比較してα-helix構造の安定性が4倍以上改善されると共にタンパク質分解に対する顕著な抵抗性がもたらされることが示されており今後のPPI阻害剤作成のための重要な知見が得られたと考えています。
本研究は微生物化学研究所内の共同研究となっていまして、分子合成に特化した渡辺研とin vitroの解析が得意な野田研という互いの得意分野がうまく相補する形の共同研究であり、私自身は一番最後の細胞解析の部分に関わらせていただきました。First authorであるJin Cuiさんが非常にアクティブにPeptideの合成をされていまして、必要なPeptideをものすごい速度で合成して持ってきてくれることにとても驚きました。本研究の成果については来月末に開催されますThe 10th International Symposium on AutophagyにてJinさんが報告される予定となっています。興味を持たれた方はぜひJinさんの発表を聞いて下さい。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。