PubMedID 36066504
タイトル NCOA4 drives ferritin phase separation to facilitate macroferritinophagy and microferritinophagy.
ジャーナル The Journal of cell biology 2022 Oct;221(10):.
著者 Ohshima T, Yamamoto H, Sakamaki Y, Saito C, Mizushima N
  • フェリチンはNCOA4依存的に液滴を形成し、マクロオートファジーとミクロオートファジーの2つの経路でリソソームに輸送されて分解される
  • Posted by 東京大学医学部分子生物学分野 大島 知子
  • 投稿日 2022/09/30

最近、J. Cell Biol.に掲載された私たちの論文を紹介させて頂きます。

鉄貯蔵タンパク質であるフェリチンはFTH1とFTLからなる24量体のケージ状複合体を形成し、内腔に鉄イオンをため込みます。細胞内で鉄が不足すると、フェリチンはオートファジー(マクロオートファジー)またはエンドソームの多胞体様経路(ミクロオートファジー)によりリソソームに運ばれ、鉄イオンを放出します。フェリチン分解には、フェリチンのオートファジーレセプターとして報告されたNCOA4と、オートファジーアダプター分子であるTAX1BP1が必要とされます。NCOA4はTAX1BP1と直接相互作用しながらオートファジーによる分解を仲介することが示唆されていましたが、その分子機構は不明でした。また、フェリチンはマクロオートファジー不全のFIP200 KO細胞で球状の凝集体として細胞質に蓄積することを私たちのグループが以前報告しました (Kishi-Itakura et al., 2014) 。フェリチンのクラスター形成は野生型の細胞・組織でも報告されていて、この特異な分布様式がフェリチンの選択的分解に対して意味を持つのではないか、という仮説から今回の研究はスタートしました。

私たちは、フェリチンがNCOA4と共に細胞質において液-液相分離(liquid-liquid phase separation: LLPS)による液滴を形成し、このフェリチン液滴(フェリチン–NCOA4液滴)がTAX1BP1依存的にオートファゴソームやエンドソームに取り込まれることを示しました。FTH1とNCOA4が液滴形成に必要な最小構成因子であることを実験的に明らかにしました。さらに、NCOA4を中心とした多価相互作用 (NCOA4の自己二量体化および既知のFTH1–NCOA4直接結合) がフェリチン液滴形成の駆動力となっており、NCOA4が単なるレセプターではなく、液滴形成に不可欠なドライバー分子(液滴形成駆動分子)であることが分かりました。一方、TAX1BP1 KOではフェリチン液滴は形成されるものの、オートファゴソームやエンドソームによる取り込みが阻害される結果となり、TAX1BP1がフェリチン液滴のマクロオートファジーとミクロオートファジーに共通のアダプターであることが示されました。フェリチン液滴のマクロオートファジーは蛍光タイムラプス観察や3D-CLEMの結果などから、マクロ液滴オートファジー(macro-fluidophagy)と考えられ、同様に、フェリチン液滴のエンドソームへの取り込みは、ミクロ液滴オートファジー(micro-fluidophagy)ではないかと我々は考えています。

本研究は、従来はフェリチンの受容体として知られていたNCOA4の相分離駆動分子としての新たな役割を示すとともに、液-液相分離とミクロオートファジーとの関連性を新たに示しました。また、私たちの研究とは独立に、京都大学 岩井一宏先生のグループより、NCOA4が鉄依存的に細胞内で凝集し、このプロセスが長期的な鉄充足条件におけるATG7非依存的・TAX1BP1依存的なフェリチン分解に必要であるという成果が報告されています(Kuno et al., 2022)。今後は、液滴形成とフェリチンの細胞外分泌経路との関係、またミクロオートファジーにおける液滴形成の意義などについて更なる研究が期待されます。

本研究は水島先生、水島研の諸先輩方のご指導・ご協力・サポートのもとに論文としてまとめることができました。特に指導教員で共同第一著者でもある山本林先生には、実験の進め方から論文アクセプトに至るまで手厚くご指導いただきました。この場を借りて心よりお礼申し上げます。また、この研究はMD研究者育成プログラムの活動として行いました。同プログラムを通して、年数回のポスター/口頭発表に加えて学会への参加援助、参加生同士の交流など、さまざまな機会をいただきました。医学部の系統講義や病院実習の傍ら、放課後・休日を活用して実験を続けられたのはMD研究者育成プログラム室の皆様のご支援あってこそでした。ここに改めて感謝いたします。