PubMedID 36181465
タイトル On-grid labeling method for freeze-fracture replicas.
ジャーナル Microscopy (Oxford, England) 2022 Oct;.
著者 Osakada H, Fujimoto T
  • 凍結割断レプリカのオングリッド標識法
  • Posted by 順天堂大学医学研究科  藤本 豊士
  • 投稿日 2022/10/04

凍結割断レプリカ標識法 (SDS-FRL)を簡便化する方法についての論文を紹介します。SDS-FRLは生体膜中のタンパク質や脂質の二次元的分布を電顕観察する方法で、オートファジー研究でもAtg9の脂質スクランブリング機能やミクロオートファジーに関わる液胞膜ドメインの解析などに貢献して来ました。SDS-FRLには化学固定の影響を回避できる、膜非対称性の解析ができるなど、他の方法にはない多くの利点がありますが、難点は手法がマニアックで未経験者にとってのハードルが高いことです。このためSDS-FRLの有用性は広く認められているにも拘わらず、施行している研究者はごく少数に留まっているのが現状です。

SDS-FRLのハードルの1つは凍結割断レプリカを作製する装置と技術が必要なこと、もう1つは標識に手間が掛かることです。今回の論文では2番目のハードルを下げる方法を報告しています。なお1番目のハードルに関しては、現在市販されている装置では以前の装置より操作が格段に簡単で、技術習得に掛かる時間が大幅に短縮されています。また今回報告した方法を使えば、凍結割断レプリカ作製の技術を持つラボとの共同研究が容易になると思います。

論文の要点は次の通りです。1)電顕用グリッド(直径3 mmの円形のメッシュにフォルムバール膜を張ったもの)をカーボンコートして疎水性にすると、凍結割断レプリカは白金・炭素薄膜の側で付着し、生体膜分子の側はフリーの状態で維持される。2)グリッドに載せて乾燥させた凍結割断レプリカ上でタンパク質、脂質を標識することができる(ホスファチジルイノシトール3燐酸、クリック法によるホスファチジルコリン、Erg1-GFPの標識について確認した)。3)グリッドに載せた凍結割断レプリカを標識前に光顕観察して、観察対象の構造が含まれているかどうかをチェックできる。

SDS-FRLで取り扱うレプリカは0.1–0.3 mm程度の大きさの断片です。従来法では、実体顕微鏡下でマイクロピペットを使って多くの液間を移動させることが必要です。さらに標識の最後に電顕用グリッドに載せるステップがありますが、これが最大の難関で、熟練者でもレプリカを失うことがあります。また折角、時間と労力をかけて標識したにも拘わらず、レプリカに観察対象の構造が全く含まれていない(例えば細胞外の氷だけが見える)ということもあります(凍結割断がランダムな面で起こるために生じる問題です)。

今回の方法(オングリッド法)では最初にレプリカを電顕用グリッドに載せ、その後のステップは金属製ループやピンセットでグリッドを移動させるだけになります。この操作は電顕を使用するラボで日常的に行われており、新たな技術習得の必要はありません。また標識前にレプリカを光顕観察することにより、観察対象を含まないレプリカを標識してしまう確率を減らすことができます(ただし光顕観察ではレプリカの質は判断できず、また観察対象によっては氷との区別がつきにくいことがあります)。

乾燥後のレプリカを標識できることを不思議に思われるかもしれませんが、ウェスタンブロッティングやタンパク質オーバーレイアッセイでタンパク質や脂質をブロットしたニトロセルロース膜を乾燥させたあとに使用しているのと基本的には同じと考えられます。ただし凍結割断レプリカでは生体膜構造が維持されている点でニトロセルロース膜と異なるため、オングリッド法で標識可能かどうかについては個別の分子について検討することが必要です。

オングリッド法がSDS-FRLのハードルを下げ、オートファジー研究者のユーザーが増えることを期待しています。