PubMedID 36217212
タイトル Liquid droplet formation and cytoplasm to vacuole targeting of aminopeptidase I are temperature sensitive in Saccharomyces cerevisiae.
ジャーナル FEBS letters 2022 Oct;.
著者 Suzuki K, Hirata E
  • Ape1液滴形成は温度に依存する
  • Posted by 東京大学大学院新領域創成科学研究科 鈴木 邦律
  • 投稿日 2022/10/12

 私達が昨年のマルチモードオートファジー班会議で発表した内容が論文となったので紹介します。
 出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae には、Cytoplasm-to-vacuole targeting (Cvt) pathwayと呼ばれる選択的オートファジーの経路があります。Cvt pathwayは栄養増殖時に動いている経路で、液胞酵素であるAminopeptidase I (Ape1)やalpha-mannosidase (Ams1)を液胞内腔へと輸送します。また、出芽酵母内の主要なレトロトランスポゾンであるTy1のウィルス様粒子を液胞へと輸送することも知られています。これらの選択的積荷に対して、Atg19とAtg34という二種類の受容タンパク質が作用しています。Cvt pathwayにおいては、合成された前駆型Ape1が液滴を形成し、Ape1液滴をAtg19が認識することがトリガーとなり、下流のAtgタンパク質がリクルートされることで、膜形成が行われます。つまり、Ape1液滴の形成がCvt pathwayの初発段階として極めて重要であるということになります。
 今回の発見は、既に報告されている、Ape1(K12R)の温度感受性の再現を取るべく、Ape1(K12R)-GFPを観察した実験に端を発します。GFP cleavage assayにより、温度感受性を確認したところ、Ape1(K12R)-GFP輸送の温度感受性は確認できたのですが、コントロールとして使用していた野生型のApe1-GFPの輸送もなぜか温度感受性でした。局在を観察すると、制限温度下では、Ape1液滴の形成が見られませんでした。PAS形成はApe1液滴の形成に依存するので、制限温度下ではPASも形成されませんでした。
 次にGFPを付加していない野生型のApe1の温度感受性を確認したところ、GFPの観察で用いたSEY6210株では温度感受性は確認できませんでした。つまり、SEY6210株ではApe1にGFPを融合することで、Ape1液滴形成が温度感受性になったと考えられます。対照的に、ゲノムワイドな解析によく使われるBY4741株では、野生株でもApe1液滴の形成は温度感受性を示しました。SEY6210とBY4741のAPE1遺伝子の塩基配列を確認したところ、一塩基の違いはありましたが、アミノ酸配列は同一でした。また、両者の増殖限界温度はほぼ同じでした。SEY6210とBY4741のhybrid diploidを作製したところ中間的な温度感受性を示しました。論文には示してありませんが、このdiploidをtetradしたところ、表現型が2:2に分離することもありますが、中間段階の表現型を示す場合が多いことから、比較的少数の温度耐性因子と温度感受性因子が関わっていることが予想されます。
 BY4741バックグラウンドの高温増殖耐性株はいくつか知られています。異なるふたつの系統由来の温度感受性株を確認したところ、どちらの系統もApe1輸送は高温に耐性でした。これらの株では高温増殖能とApe1の高温輸送耐性は相関していることが分かりました。
 本研究から、①Ape1にGFPを融合すると温度感受性になること、②Ape1液滴形成の温度感受性には複数の因子が関わっていることが明らかとなりました。現在我々は、①の知見を基に、出芽酵母のGFP融合株のコレクションから高温増殖感受性株のスクリーニングを行っています。また、②の結果を説明すべく、因子の特定を進めています。本研究は比較的マニアックですが、今後の展開次第では面白くなる可能性は十分にあると考えています。