PubMedID 34800582
タイトル Pathology-associated change in levels and localization of SIDT2 in postmortem brains of Parkinson's disease and dementia with Lewy bodies patients.
ジャーナル Neurochemistry international 2022 Jan;152105243.
著者 Fujiwara Y, Kabuta C, Sano T, Murayama S, Saito Y, Kabuta T
  • レビー小体病患者剖検脳におけるα-シヌクレイン病態に付随したSIDT2の発現および局在変化
  • Posted by 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所、大阪大学大学院 連合小児発達学研究科 藤原悠紀
  • 投稿日 2022/11/29

 発表から随分間が開いてしまいましたが今年1月に掲載された私たちの論文を紹介させていただきます。これまでの研究で私たちはリソソームがATP依存的に核酸やタンパク質を内部に直接取り込み、分解する新たな仕組みを発見しました。(余談ですが現在bioRxivに掲載中のプレプリントではこのような経路のことを「DUMP」と銘打っていますが、この名称については現在再検討中です。)この経路においてはリソソーム膜タンパク質SIDT2が基質分子の取り込みにおいて重要な役割を果たすことがわかっています。今回の研究ではレビー小体病患者の死後脳におけるSIDT2の量や局在の変化を報告しました。

 パーキンソン病(PD)やレビー小体型認知症(DLB)は病変部などの神経細胞にα-シヌクレインタンパク質の蓄積を認める、「レビー小体病」と総称される神経変性疾患です。SIDT2は細胞内においてα-シヌクレインタンパク質の分解を促進します (Fujiwara et. al. bioRxiv. 2021)。しかしながらレビー小体病の病態におけるSIDT2の関わりはこれまで知られていませんでした。本研究ではまず、これらレビー小体病患者の剖検脳において、健常脳対照群と比較してSIDT2タンパク質の量が増加していることを明らかにしました。興味深いことにこのような量的変化はレビー小体病においてα-シヌクレイン病理の出現しやすい前帯状皮質では観察された一方で、出現しにくい下前頭回では観察されませんでした。さらに、対照群も含めた全検体の中で前帯状皮質におけるα-シヌクレインの量とSIDT2の量に強い相関が見られました。これらのことから、SIDT2はα-シヌクレイン病態に付随する形で発現上昇していることが示唆されます。これらに加え、PDおよびDLB患者前帯状皮質において、SIDT2の一部がリン酸化α-シヌクレイン陽性の凝集物と共局在していることも明らかとなりました。

 これらの変化がレビー小体病の原因となっているのか、病態の結果として起きたものなのか(あるいはその両方か)、考察しました。考えられる可能性としてはまず、①α-シヌクレインの増加に対する防御的な反応としてα-シヌクレインの分解を仲介できるSIDT2が積極的に発現上昇している可能性と、②α-シヌクレイン病態の進行に伴いSIDT2やそれを含むリソソームがα-シヌクレインの凝集物に巻き込まれる形で蓄積している可能性の双方が考えられるかと思います。もちろん後者の場合も、それに対する代償としてSIDT2の発現も付随して上昇している可能性も考えられます。リン酸化α-シヌクレイン凝集物とSIDT2の共局在が見られたことから、少なくとも病態の一部においては②が起きていると考えられますが、一方でSIDT2ノックアウトマウスの脳ではα-シヌクレインタンパク質の蓄積が観察されたことからSIDT2はin vivoにおいても脳内のα-シヌクレインタンパク質分解において重要な役割を果たしていると考えられ、可能性の①と②が病態において並立していることも考えられます。

 本論文の作成中に筆頭著者の藤原は国立精神・神経医療研究センターから大阪大学に異動しました。コロナの影響などもあり、しばらくオートファジー研究会にも顔を出せないままの異動となってしまいましたが、これからも何卒宜しくお願い致します!