PubMedID 35804072
タイトル Lack of Cathepsin D in the central nervous system results in microglia and astrocyte activation and the accumulation of proteinopathy-related proteins.
ジャーナル Scientific reports 2022 Jul;12(1):11662.
著者 Suzuki C, Yamaguchi J, Sanada T, Oliva Trejo JA, Kakuta S, Shibata M, Tanida I, Uchiyama Y
  • カテプシンD欠損が中枢神経組織に与える影響を解明 ~プロテオパチー関連神経疾患の動物モデルとしての期待~
  • Posted by 順天堂大学大学院 医学研究科 谷田 以誠
  • 投稿日 2022/11/30

 我々は神経セロイドリポフスチン症の原因遺伝子の一つであるカテプシンD遺伝子の中枢神経組織特異的欠損マウスを作成し、中枢神経組織におけるカテプシンDの欠損によって、神経変性様表現型を示し、神経細胞の脱落に加え、ミクログリアとアストロサイトが活性化することを明らかにしました。また、このマウスではアルツハイマー病やパーキンソン病に関連したプロテオパチー関連タンパク質(リン酸化Tauやリン酸化αシヌクレイン)の蓄積も認められ、このマウスがプロテオパチー関連タンパク質の早期蓄積モデルとして利用できる可能性を示しました。
 カテプシンDはリソソームの主要タンパク質分解酵素の一つであり、カテプシンD遺伝子、CtsDは、リソソーム病の神経セロイドリポフスチン症の原因遺伝子の一つであるCLN10と同一遺伝子です。神経セロイドリポフスチン症は乳児期より重度の神経症状を示す進行性の遺伝性神経変性疾患です。これまでに、全身カテプシンD欠損マウスでは中枢神経組織における神経変性の他に、腸管、免疫系など多くの臓器でも異常が報告されていましたが、中枢神経組織のみでカテプシンDの欠損した場合、神経変性を伴うマウス個体の生存率の低下を引き起こすか否かはわかっていませんでした。そこで、我々は、中枢神経組織特異的にカテプシンDを欠損させたマウスを作成し、中枢神経組織におけるカテプシンD欠損と神経変性の関係について検討しました。
 今回作成した中枢神経組織特異的カテプシンD欠損マウスは、誕生時は顕著な身体症状は認められず、生後23日前後から振戦などの神経症状と生育阻害が認められました。生後25日目では大脳皮質、海馬、視床、小脳に消耗性色素(セロイドリポフスチン)が蓄積し、神経セロイドリポフスチン症に特徴的な病理所見が見られ、その後、マウス個体の生存率の急激な低下が見られました。オートファジーが関わるパーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患の患者さんの脳組織では、ユビキチンやオートファジー関連タンパク質の蓄積が報告されていますが、今回の中枢神経組織特異的カテプシンD欠損マウスの視床においても、オートファジー関連タンパク質の異常な蓄積が見られました。
 さらに、中枢神経系における唯一の免疫細胞であるミクログリアが、異常なオートファジー関連構造体を蓄積した神経細胞を貪食していました。また、組織炎症の指標であるミクログリアとアストロサイトが増加しており、炎症メディエーターも増加していました。つまり、中枢神経におけるカテプシンD欠損により神経セロイドリポフスチン症が引き起こされ、生命予後不良の一因となっていることが強く示唆されました。
 近年、オートファジー・リソソーム分解系の破綻とアルツハイマー型認知症やパーキンソン病に代表されるプロテオパチーとの関連が注目されています。そこで、プロテオパチー関連タンパク質として知られているリン酸化Tauやリン酸化αシヌクレインの蓄積を調べたところ、中枢神経組織特異的カテプシンD欠損マウスの視床においては、これらのタンパク質が蓄積していました。この解析結果は、中枢神経組織特異的カテプシンD欠損マウスがプロテオパチー関連タンパク質の早期蓄積モデルとして利用できる可能性を示しています。
 本研究により、カテプシンDの欠損により重度の神経障害が引き起こされることが示され、中枢神経組織の神経細胞維持にはカテプシンDが必須であることが明らかになりました。加えて、アルツハイマー病やパーキンソン病に関連したプロテオパチー関連疾患との組織学的類似性も本研究で認められ、中枢神経組織特異的カテプシンD欠損マウスが今後の神経疾患の病態解明と治療法の研究・開発へと貢献できることが期待されます。

この内容はプレスリリースされましたので、よろしければご参照ください。
https://www.juntendo.ac.jp/news/20220712-01.html

ご紹介が遅くなりましたが、ご興味を持っていただければ幸いです。