PubMedID 37192628
タイトル The mitochondrial intermembrane space protein mitofissin drives mitochondrial fission required for mitophagy.
ジャーナル Molecular cell 2023 May;.
著者 Fukuda T, Furukawa K, Maruyama T, Yamashita SI, Noshiro D, Song C, Ogasawara Y, Okuyama K, Alam JM, Hayatsu M, Saigusa T, Inoue K, Ikeda K, Takai A, Chen L, Lahiri V, Okada Y, Shibata S, Murata K, Klionsky DJ, Noda NN, Kanki T
  • マイトファジーの際にミトコンドリア分裂を促進するmitofissinの発見
  • Posted by 新潟大学大学院医歯学総合研究科 福田 智行
  • 投稿日 2023/05/23

我々がMolecular Cell誌にて発表した、マイトファジーに必須のミトコンドリア分裂因子mitofissinに関する論文を紹介いたします。

マイトファジーはミトコンドリアを選択的に分解するオートファジーです。マイトファジーが誘導されると、外膜に局在するレセプターに依存して隔離膜が伸長し、ミトコンドリアの一部が膜に包まれてオートファゴソーム内に収納されます。この過程で、ミトコンドリアの一部がどのようにしてミトコンドリア本体から切り離されるかについては、長らく謎とされてきました。我々はこれまでに、ミトコンドリア分裂因子としてよく知られているダイナミン様タンパク質(Dnm1/Drp1)がマイトファジーには不要であることを報告しており(Yamashita et al., JCB 2016)、未知のミトコンドリア分裂機構の存在が示唆されていました。

我々は分裂酵母という、オートファジー研究でよく使われる出芽酵母とは系統的に離れた酵母の遺伝子破壊株ライブラリーを網羅的に探索し、レセプターであるAtg43(Fukuda et al., eLife 2020)に加え、マイトファジーに必須の因子Atg44を発見しました。Atg44は73アミノ酸からなる極小タンパク質で、ミトコンドリア膜間腔領域に局在します。Atg44を欠損するとミトコンドリアは膨らんだ大きな形態を示すこと、過剰発現するとDnm1非依存的にミトコンドリアを断片化することから、Atg44は新規のミトコンドリア分裂因子であると考えました。Atg44は菌類で高度に保存されており、緑藻やゼニゴケにもAtg44に似たタンパク質が存在しています。そこで、Atg44とその相同タンパク質をmitofissin (MITOchondrial FISSion proteIN)と名付けました。

mitofissinは出芽酵母にも存在しており、やはりマイトファジーに不可欠でした。出芽酵母のmitofissin欠損株にマイトファジーを誘導すると、ミトコンドリアの突起が観察され、その先端にはレセプター(Atg32)と隔離膜が局在していました。これは、mitofissinによる分裂がないと、分解されるはずのミトコンドリア領域が切り離されないため、隔離膜で包み込まれずに本体とつながった状態で滞っていると解釈できます。分裂酵母の結果と合わせて、mitofissinはマイトファジー時のミトコンドリア分裂を担う因子であると結論しました。

この結論は、in vitro解析によっても支持されました。精製したmitofissinは脂質膜への結合能を有しており、脂質ナノチューブに添加するとチューブを切断する活性を示しました。また、mitofissinが脂質膜辺縁に集積して脂質膜を分裂させる様子が、高速AFMで観察されました。さらに、結晶構造解析から、mitofissinは疎水性面と親水性面を持つ両親媒性の構造を有していました。溶液中および結晶内では疎水面を内部に向けた8量体として存在するものの、シミュレーションおよび脂質膜上での高速AFMの結果、膜に作用する際には4量体あるいはそれ以下の状態で露出させた疎水面を脂質膜へ作用させると予想されました。この作用が膜の脆弱性を誘起し、脂質膜の分裂を引き起こすと考えられます。

mitofissinは非常に小さいため、出芽酵母のmitofissinをコードする領域は、以前は遺伝子として認識されておらず、遺伝子破壊株ライブラリーにも含まれていませんでした。そのため、Atg32を発見した網羅的な探索(Kanki et al., Dev. Cell 2009; Okamoto et al., Dev. Cell 2009)の際には同定することが不可能でした。改めて分裂酵母をモデルに研究を行う意義が示せたかと思います。今後は、隔離膜の伸長とmitofissinによるミトコンドリア分裂がどのようにリンクして進行するか、分裂の詳細な分子機構、マイトファジー以外のミトコンドリア分裂におけるmitofissinの機能、哺乳類細胞における類似の機構について、それぞれ明らかにしたいと思います。