PubMedID 37288820
タイトル Autophagosome membrane expansion is mediated by the N-terminus and -membrane association of human ATG8s.
ジャーナル eLife 2023 Jun;12.
著者 Zhang W, Nishimura T, Gahlot D, Saito C, Davis C, Jefferies HBJ, Schreiber A, Thukral L, Tooze SA
  • ATG8分子のN末とN末のシス型膜相互作用はオートファゴソーム膜伸張を調節する働きがある
  • Posted by フランシスクリック研究所 (今は東大医/ JSTさきがけ専任) 西村 多喜
  • 投稿日 2023/06/12

先日公開された、ATG8分子N末端の機能解析に関する論文の紹介です。ATG8分子は構造がユビキチンと類似していますが、N末端だけが少し異なっており、αヘリックスを有しています。このαヘリックス領域は酵母から哺乳動物まで高度に保存されていることから、ユビキチン様タンパク質のなかでもATG8分子ファミリーを特徴付ける領域になっています。このN末領域はin vitroでのリポソームhemifusionを促進する働きがあることや、N末を欠損させるとオートファゴソームのサイズが小さくなることがすでに報告されています。ただ、このN末端がオートファゴソーム形成時やATG8脂質化反応時にどのような挙動をしているのか、あまり解析されていませんでした。

そこで私たちのグループは、N末端にNBDを付加することで脂質化反応時にATG8 (論文ではLC3BとGABARAPのみを解析) N末端の挙動がどうなっているのか調べることにしました。NBDは環境依存的に蛍光強度が増加する性質があるので、NBD蛍光の変化をモニターすることでATG8分子N末端の動態に関する情報を得ることが出来ます。その結果、リポソーム上でLC3BとGABARAPの C末端が脂質化されるとN末端がリポソーム膜と相互作用することが分かってきました。MD simulationでも脂質化ATG8のN末端が膜と相互作用する様子が観察されました。相互作用する膜はATG8が局在する膜と同一であることから、cis-membrane associationであることが分かりました。

次に、このin vitroで観察されるcis-membrane associationがオートファゴソームのサイズ制御に関与するかどうか調べました。他のATG8分子の影響を完全に除くため、細胞は全ATG8分子欠損変異体であるHexa KO細胞を用いて、そこにGABARAPの野生型や変異体を戻してオートファゴソームのサイズを3D-CLEMにより調べました。GFP-Syntaxin17 transmembrane domain陽性を指標にオートファゴソームの膜構造を調べました。その結果、野生型GABARAPを戻したのに比べると、Hexa KO細胞やN末欠損変異体戻し株ではオートファゴソームのサイズが非常に小さいままであることが分かりました。またN末端に変異を導入したものやcis-membrane associationが阻害された変異体では、部分的ではあるものの、やはりオートファゴソームのサイズが小さいことが分かりました。これらの結果は、オートファゴソームが正常なサイズになるにはATG8分子のN末端が必要であることを示しており、cis-membrane associationも部分的に寄与していることが示唆されました。興味深いことに、LIR(LC3-interacting region)と結合しないLIR-docking mutantではオートファゴソームのサイズが野生型と同程度であったことから、LIRを介したタンパク質相互作用はサイズ制御にそれほど重要ではなさそうということも示唆されました。

これらの知見は、単にcis-membrane associationという新しい膜相互作用を見出したというだけでなく、Hexa KO細胞にGABARAPだけを戻してシンプルにGABARAPのオートファゴソームサイズへの寄与を3D-CLEMを使ってきちんと解析した初めての研究成果になります。ここで用いたGABARAPはタグなしコンストラクトを用いており、これも本研究での重要な点の一つです。bioRxivに初めに投稿したversionではGFP-GABARAPを用いていましたが、GFPタグがN末にあることもありタグの影響を無視できないということで、再投稿したversionではタグなしで実験を行いました。その結果、GFP-GABARAPを用いた実験で見えていたp62分解のphenotypeが見えなくなり、オートファゴソームサイズのphenotypeだけが観察されるようになりました。以上のような経緯から、タイトルも変更し、内容も改訂したものをeLifeに再投稿しました。

ただ本研究の結果からはっきりと言えることは、N末がオートファゴソームのサイズ制御に非常に重要であるということと、ATG8のN末は膜上で動的な挙動を示し、時にはcis-membrane associationをしている可能性があるということになります。考えられる可能性としてはATG8のN末が膜と相互作用することで物理的に膜脂質を押し出して膜伸張を引き起こしているとか、元水島研の境祐二先生が報告されているようにedgeで隔離膜を安定化している可能性もあるのではないかと思います。ただいずれも推測に過ぎず、サポートするデータは何も無いので、今後検証すべき重要な課題かと思います。私たちの実験条件では、過去の報告にあるATG2-GABARAPとの結合は観察されなかったので、ATG2依存的な脂質輸送への影響はあまりはっきりとしたことは言えませんでした。

以前、野田展生先生のグループより報告されたものでは別の領域がcis-membrane associationをしており、その状況ではN末は細胞質側にexposeされているというモデルになっています。ただ、私たちのモデルはそれと必ずしも矛盾するという訳ではなく、オートファゴソーム膜の曲率や膜脂質組成によって膜上でのATG8の配向性が異なる可能性を示唆しているのではと考えております。またN末欠損変異体と比べると、cis-membrane association変異体のphenotypeも部分的であることから他の分子機構を考える必要があるのは明らかで、東工大の中戸川仁先生らのグループが報告されているhemifusionによる寄与も十分にあると考えています。

本研究は私がフランシス・クリック研究所のTooze labでポスドクとして実施していた研究成果の一つです。In vitro real-time assayを作ろうとNBDを用いた系を構築していたところで、日本に帰国することが決まり、大学院生のWenxinさんの仕事と一緒にして論文としてまとめることになりました。3D-CLEMでは水島研のみなさまには大変お世話になりまして、特に、齊藤知恵子先生、石田 陽子さん、五十嵐 恵子さんにはサンプル調製と電顕解析等、大変お世話になりました。この場を借りてお礼を申し上げます。