PubMedID 37352354
タイトル Unique amphipathic α helix drives membrane insertion and enzymatic activity of ATG3.
ジャーナル Science advances 2023 Jun;9(25):eadh1281.
著者 Nishimura T, Lazzeri G, Mizushima N, Covino R, Tooze SA
  • オートファジーに必要なユニークな両親媒性αヘリックスの発見
  • Posted by 東大医/ JSTさきがけ専任 西村 多喜
  • 投稿日 2023/06/26

最近受理されましたATG分子の両親媒性αヘリックスに関する論文を紹介させていただきます。

両親媒性αヘリックスは20アミノ酸程度の短い領域からなる膜結合モジュールの一つです。水溶液中では構造を取らず、膜と結合することでαヘリックス構造を形成するという特徴があります。一般的にin vitroなどの実験では曲率の高い膜構造と結合しやすい性質があることから、この両親媒性αヘリックスを有しているATG分子はオートファゴソーム膜の高い曲率を認識して膜結合しているのだろうと考えられていました。しかしながら、これらのATG分子の細胞内局在や膜に局在するタイミングが必ずしも一致していないことや、各両親媒性αヘリックスのアミノ酸構成が異なることに私は疑問を持ち始めました。実際、LC3脂質化反応の最終ステップに関与するATG3に存在する両親媒性αヘリックスを他のものに置換する実験を行ったところ、他のATG分子の両親媒性αヘリックスでは正常にATG3が機能しないことが分かってきました。これはATG3の両親媒性αヘリックスが単なる膜結合ではなく、特有の性質を有していることを意味していました。

では、どのような性質がATG3の両親媒性αヘリックスの機能に重要なのでしょうか?私たちは様々な生物種のATG分子から両親媒性αヘリックスの配列を集めてきて、各配列のアミノ酸組成や物理化学的な性質を算出し、さらに主成分分析を行うことでATG3両親媒性αヘリックスを特徴付ける主要なパラメーターを調べました。その結果、ATG3両親媒性αヘリックスはトリプトファンやフェニルアラニンといったかさの大きな疎水性アミノ酸が比較的少なく、かつ全体の疎水度が低いことが分かってきました。

このデータは全く予想しない、非常に意外な結果でした。「かさの大きな疎水性アミノ酸が比較的少なく、かつ全体の疎水度が低い」という特徴は、膜結合するという性質を弱めてしまうからです。そこでATG3依存的なLC3脂質化反応をもう一度よく考えることにしました。オートファジーの分野で議論されることはあまりないのですが、LC3脂質化反応は有機化学で一般的なSN2反応です。私は学部時代に使っていた有機化学の教科書を引っ張り出し、電子対や矢印を書きながら化学反応を確かめていると、SN2反応は脱離基が外れる段階が律速であることを思い出しました。つまり、脱離しやすい脱離基の方が反応がスムーズに進み、酵素活性が高いということになります。ATG3依存的なLC3脂質化反応の場合では、ATG3-LC3がLC3をホスファチジルエタノールアミン(PE)に受け渡したあとの、ATG3(脱離基)が膜から離れる段階が律速ということになります。これはつまり、ATG3は単に膜と結合すれば良いという訳ではなく、程よい強さで結合することが重要であるということを意味しています。実際、様々な変異体を作製して、この考えが正しいことが分かりました。

また本研究ではフランクフルト大学のRoberto Covino博士にお願いして、ATG3-LC3中間体と膜結合のMDシミュレーションも行なっています。この解析でも予想していなかったことなのですが、ATG3-LC3中間体が膜上で2つの異なる構造をとるということが見えてきました。過去の知見を踏まえると、ATG5-12-16L1複合体と結合する領域がこの構造変化にも重要そうだと推察されるような結果だったので、それをもとに新しいモデルを出しています。