PubMedID | 37364041 |
---|---|
タイトル | Comprehensive analysis of autophagic functions of WIPI family proteins and their implications for the pathogenesis of β-propeller associated neurodegeneration. |
ジャーナル | Human molecular genetics 2023 Jun;. |
著者 | Shimizu T, Tamura N, Nishimura T, Saito C, Yamamoto H, Mizushima N |
- WIPIファミリータンパク質のオートファジー機能の網羅的解析とβプロペラータンパク関連神経変性症の病態生理におけるオートファジーの意義
- Posted by 東京大学大学院医学系研究科 清水 崇紘
- 投稿日 2023/07/05
WIPI1–4のオートファジー機能を網羅的に解析した論文が最近受理されましたので,その紹介をさせていただきます.
β-propellers that bind polyphosphoinositides(PROPPINs)は,真核生物内で保存されたタンパク質ファミリーです. PROPPINsはホスファチジルイノシトール3リン酸(PI3P)と結合する能力を持ち,オートファジーにおいてPI3Pの下流で機能するタンパク質(Atg2/ATG2, Atg16/ATG16L1)の隔離膜への局在化を助けると考えられています.PROPPINsは,酵母ではAtg18, Atg21, Hsv2の3つが存在し,哺乳類ではWIPI1–4の4つが存在します.WIPI4の変異がヒト神経疾患であるβプロペラータンパク関連神経変性症(BPAN)(当初はSENDAと呼ばれた)の原因となることが2013年に明らかになり,その後WIPI2, WIPI3の変異もヒト神経疾患と関連することが明らかにされてきました.しかし,ヒト疾患との関連が深いにもかかわらず,WIPI1–4のオートファジーにおける機能は網羅的かつ定量的に解析されていませんでした.酵母ではAtg18がAtg2の隔離膜への局在化に必要で,Atg21がAtg16の隔離膜への局在化に関わることが知られています.哺乳類ではWIPI2がATG16L1の隔離膜への局在化に関わることが知られている一方で,ATG2の隔離膜への局在化にWIPIタンパク質が関与しているかは不明でした.また,BPANと関連するWIPI4についても,ATG2と結合するということ以外はオートファジーにおける機能はほとんど不明でした.
私たちはHEK293T細胞を用いて,各WIPIタンパク質を欠損した細胞,パラログと考えられるWIPI1とWIPI2,もしくはWIPI3とWIPI4の二つを欠損した細胞,全てのWIPIタンパク質を欠損した細胞を作製し,これらの細胞のオートファジー活性を測定しました.オートファジー活性を正確かつ高感度に測定するために,最近私たちの研究室で開発されたHaloTagプロセッシングアッセイを用いました.この解析により,既報告の通りWIPI2が哺乳類オートファジーにほぼ必須であることが分かりました.さらに,WIPI3とWIPI4の同時欠損でオートファジー活性の低下が観察され,これらのタンパク質もオートファジーにおいて冗長的に機能している可能性が考えられました.
WIPI3とWIPI4がオートファジーに必要であるかどうかは既報告でも議論が分かれるところであり,特にWIPI4とATG2の結合の意義は不明でした.WIPI3とWIPI4の二重欠損細胞のオートファジー異常についてさらに解析を進め,WIPI3とWIPI4はATG2の隔離膜への局在化に寄与していることが示唆されました.なお,従来のオートファジー活性評価方法(LC3の分解アッセイやGFP-LC3-RFPレポーターを用いる方法)ではWIPI3とWIPI4の二重欠損細胞のオートファジー活性低下は検出できませんでした.これはHaloTagプロセッシングアッセイと比較して従来の方法の感度が低いためだと考えられました.
BPANは,精神発達遅滞を中核とする神経発達異常症と,青年期以降の認知症やパーキンソン病様症状の進行や鉄沈着を特徴とする神経変性症の2つの側面を持つ疾患です.今まで,WIPI4のオートファジー機能を定量的に測定する方法はなく,BPANの病態生理におけるオートファジー異常の関与は不明でした.そこで,WIPI3とWIPI4の二重欠損細胞にBPAN関連WIPI4ミスセンス変異体を発現させて,オートファジー活性を調べました.その結果,疾患関連変異によるオートファジー活性の低下の程度と神経発達の異常の程度が相関していることが示唆されました.これは,BPANの神経発達異常がオートファジーの異常による可能性を示唆する結果です.一方で.疾患関連変異によるオートファジー活性低下の程度と神経変性を示唆する症状の発症年齢には明確な相関が認められませんでした.この結果は,WIPI4が非オートファジー機能を持ち,非オートファジー機能の異常が神経変性の原因となっていることを示唆しています.
本研究はWIPI1–4のオートファジー機能を網羅的に解析し,今まで議論の多かったWIPI3とWIPI4のオートファジー機能を明らかにしたものです.また,本研究は従来のオートファジー活性測定法では明らかにできないわずかな異常も,HaloTagプロセッシングアッセイで検出できることを実証しました.さらに,BPANの病態にWIPI4のオートファジー機能だけではなく、非オートファジー機能が関わる可能性も示唆しました.今後遺伝学的診断の発達と共に,神経変性をきたす前にBPANと診断される症例が増加することが予想されます.これらの症例で神経変性の進行を抑制するためには,今後WIPI4の非オートファジー機能の究明が必要と考えられます.
私は神経内科医として,現在は都内で勤務医をしています.BPANという病気の存在を知ってから,その不思議な臨床像に魅せられ,その病態について何か解明できたらと思っていました.病態生理の全貌を明らかにするにはまだまだ道のりは遠いですが,今回の研究でその道筋を少しは照らせたかなと思います.実験から論文執筆まで,水島教授をはじめとする共著者の皆様にご指導いただきました.また,大学の同級生である栗川義峻君は,数々のnegative dataに心折れそうになっていた時に励ましの言葉をくれ,実験結果についてのdiscussionに付き合ってくれました.さらに,研究室のメンバーは皆優しく,研究の初学者である私に実験のあれこれを丁寧にご指導くださいました.この場を借りて御礼申し上げます.