PubMedID | 38519771 |
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タイトル | Mitophagy mediated by BNIP3 and NIX protects against ferroptosis by downregulating mitochondrial reactive oxygen species. |
ジャーナル | Cell death and differentiation 2024 May;31(5):651-661. |
著者 | Yamashita SI, Sugiura Y, Matsuoka Y, Maeda R, Inoue K, Furukawa K, Fukuda T, Chan DC, Kanki T |
- マイトファジーがフェロトーシスを抑制する
- Posted by 九州大学大学院医学研究院 山下俊一
- 投稿日 2024/06/07
今年度から研究室が新潟大学から九州大学に移りました。引き続き何卒よろしくお願いいたします。
研究室の引越しと重なってしまいご紹介が遅くなりましたが、Cell Death and Differentiation に発表しました私たちの論文を紹介させて頂きます。
マイトファジーは、異常もしくは余剰なミトコンドリアを分解することで、細胞の恒常性維持や細胞分化に伴うミトコンドリア量制御に寄与していると考えらえています。しかし、マイトファジーが完全に欠損した細胞でどのようなことが起きるのかについては、これまで検討されていませんでした。この原因は、マイトファジーに必須とされる因子が多数報告されており、それらが冗長的に機能するためいずれかの遺伝子を破壊しただけではマイトファジー不能にはならなかったためと考えられます。
マイトファジーには大きく2種類の経路があり、遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子変異が多数報告されている PINK1 と Parkin が仲介するユビキチン依存的経路と、ミトコンドリア外膜タンパク質が直接隔離膜上の LC3 と結合することで、隔離膜をミトコンドリア上に繋留するレセプター依存的経路です。我々は、恒常的なミトコンドリア分解を担うと考えられるレセプター依存的経路について検討しました。
これまでに5種類のミトコンドリア外膜タンパク質がマイトファジーレセプターとして報告されていましたが、マイトファジーレセプター間の関係性については全く検討されていませんでした。そこで、本研究では5種類のレセプター遺伝子を破壊した HeLa 細胞を作製しました。この時、レセプター間の冗長性を考え、2重破壊、3重破壊を全ての組合せで作製しました。その結果、BNIP3 と NIX が同時に破壊されたときのみ低酸素で誘導されるマイトファジーが完全に欠損することが分かりました。BNIP3/NIX 2重破壊(DKO)細胞は、低酸素だけでなく報告されているすべての条件(Parkin 依存的経路を除く)でマイトファジー不能となっていました。HeLa 細胞はもともと Parkin を発現していないため Parkin 依存的経路も欠損しており、BNIP3/NIX DKO HeLa 細胞はすべてのマイトファジー経路が欠損した細胞ということができます。
BNIP3/NIX DKO 細胞では、ミトコンドリア活性酸素種(mtROS)が劇的に上昇し、酸化型グルタチオンの比率も増加していたことから、酸化ストレスに晒されていることが分かりました。さらに、メタボローム解析と遺伝子発現解析から Nrf2 による抗酸化経路が活性化していることが分かりました。ミトコンドリアから発生する過酸化水素の除去に働くカタラーゼやグルタチオン合成系も活性化されていました。そこで、カタラーゼとグルタチオン合成の阻害剤を同時に処理したところ BNIP3/NIX DKO 細胞でのみ細胞死が誘導されました。この細胞死は、アポトーシス阻害剤では抑制できず、フェロトーシス阻害剤で抑制されました。さらに細胞内鉄レベルや酸化脂質の上昇が見られたことなどから、この細胞死がフェロトーシスであると結論づけました。野生型の細胞ではカタラーゼやグルタチオン合成を阻害してもフェロトーシスが起きなかったことから、マイトファジーがフェロトーシス刺激から細胞を保護する働きがあることが分かりました。本研究で、マイトファジーとフェロトーシスとの関りを明確に示すことができたと思います。フェロトーシスは虚血性疾患やがんなど様々な疾患との関りが明らかにされており、今後マイトファジーの研究がこれらの疾患における病態発症メカニズムへと広がっていくと期待しています
本研究の一部は、私がカルフォルニア工科大学 David Chan Lab に在籍していた時に行った研究です。また、京都大学大学院医学研究科付属がん免疫総合研究センターの杉浦先生に、メタボローム解析をしていただきました。杉浦先生とディスカッションを繰り返す中で、フェロトーシスへの関心が高くなりこの論文のストーリーへとつながりました。この場をお借りして感謝申し上げます。