PubMedID 38831696
タイトル Syntaxin 17 recruitment to mature autophagosomes is temporally regulated by PI4P accumulation.
ジャーナル eLife 2024 Jun;12.
著者 Shinoda S, Sakai Y, Matsui T, Uematsu M, Koyama-Honda I, Sakamaki JI, Yamamoto H, Mizushima N
  • オートファゴソームの静電的成熟
  • Posted by 東京大学医学系研究科 水島研究室(現在: 京都産業大学生命科学部 遠藤研究室) 篠田(中野)沙緒里
  • 投稿日 2024/06/13

先日eLifeに発表した「オートファゴソームの静電的成熟」に関する論文を紹介させていただきます。

リソソームは完成したオートファゴソームとのみ融合し, 完成前のオートファゴソームとは融合しません. この制御機構の一端として, オートファゴソームが完成するタイミングで, 膜融合タンパク質syntaxin 17(STX17)が局在化することが知られています. STX17は2012年に当研究室で同定したSNAREタンパク質ですが (Itakura et al., Cell. 2012), 発見当初からSTX17のオートファゴソームへの局在が時空間的にどのように制御されているかは未解明のままでした。

本研究では, STX17の様々な変異体解析から, STX17のC末端の正電荷アミノ酸がオートファゴソーム局在に必要であることを見出しました. また, STX17はC末端の特異的な配列ではなく正電荷という性質が重要であること, in vitroでは負電荷リポソームを嗜好する性質を持つことが示唆されたことから, オートファゴソームが完成する頃に, 膜の電荷的性質が変化するのではないかと考えました.

細胞内の膜の電荷を電荷プローブのタイムラプス観察により調べると, 未閉鎖のオートファゴソームと比べて, 完成した閉鎖オーファゴソームはより負電荷を帯びていることがわかりました. さらに, 完成したオートファゴソームに蓄積する脂質について脂質結合タンパク質を用いたスクリーニングにより探索しました. その結果, この負電荷は, ホスファチジルイノシトール4-リン酸(PI4P)の蓄積によることが示唆されました. このPI4Pの蓄積は, Lysotracker未陽性のオートファゴソームやSTX17・YKT6の二重ノックダウン細胞で蓄積するリソソームと融合できないオートファゴソームでも観察されたことから, リソソームと融合していない状態でのオートファゴソームにおいて生じることがわかりました.

最後にSTX17のオートファゴソームへの局在に対するPI4P蓄積の必要性を検証しました. in vitroでのオートファゴソーム局在再構成実験でも, 単離したオートファゴソームにSTX17は局在することができますが, オートファゴソームからPI4Pを消失させる(PI4 phosphatase Sac1リコンビナント処理)と局在できなくなります. また, 分子動力学シミュレーションによっても, STX17の膜挿入はPI4Pによって制御されうることを明らかにしました. 本研究成果は, オートファゴソームの成熟過程の一端を解明し, 膜の電荷という物理的な性質によってオートファゴソームの性質が時空間的に変化することを示しました. この現象は, オートファゴソームだけでなく他のオルガネラにも拡張されることが期待されます. 一方で, オートファゴソーム上のPI4Pの産生メカニズムや細胞内での必要性, オートファゴソームの負電荷成熟機構が他の生物でも保存されているかどうかについては今後のさらなる解析が必要です. オートファゴソーム膜性質変化を担う責任因子の同定によって, オートファゴソームの成熟過程の全容解明につながることが期待されます.

博士学生として水島研でSTX17の研究を始めたのが2015年で, 約10年の歳月を経て発表できたのは, 水島さんをはじめ水島研メンバーのおかげです. 特に, オートファゴソーム上のPI4Pを生細胞内で操作することが本当に難しく, 卒業後も様々な手法を検討して下った, 山本林さん, 本田さん, 坂巻さんには大変お世話になりました. 境さんの完璧なシミュレーションによってPI4Pの必要性を示すことができた時には大変安堵しました. OBの板倉さんにはSTX17の師匠として学会等でいつもディスカッションしていただきました. また, 研究に行き詰まった際は, 中乃珈琲@水島研本店にて時間も忘れて(水島さんに怒られるくらい)ディスカッションに付き合ってくれたたくさんの友人の支えによって乗り越えることができました. この場を借りて, みなさまに感謝申し上げます.

*小話*
学生時代に班会議などで静電的成熟機構を説明するために「オートファゴソーム(シンデレラ)はSTX17(王子様)に見つけてもらうために, PI4P蓄積で纏う負電荷(青いドレス)をまとったことで, 無事に見つけてもらえました」という通称シンデレラモデルを提唱したところ, いろいろな先生にユニークで面白いと言っていただけたのが当時とても嬉しかったです.