PubMedID 40503939
タイトル The lysosomal membrane protein LAMP2B mediates microlipophagy to target obesity-related disorders.
ジャーナル Cell reports 2025 Jun;44(6):115829.
著者 Sakai R, Aizawa S, Lee-Okada HC, Hase K, Fujita H, Kikuchi H, Inoue YU, Inoue T, Kabuta C, Yokomizo T, Hashimoto T, Wada K, Mano T, Koyama-Honda I, Kabuta T
  • リソソーム膜タンパク質LAMP2Bはミクロリポファジーを介して肥満関連疾患の制御に関与する
  • Posted by 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 酒井 了平
  • 投稿日 2025/07/03

最近、Cell Reportsに掲載された私たちの論文を紹介させていただきます。

脂肪滴(lipid droplet, LD)は、細胞内で過剰な中性脂肪を一時的に貯蔵するオルガネラであり、その分解を担う経路の一つに、リソソームがLDを直接取り込む「ミクロリポファジー(microlipophagy)」があります。しかし、哺乳類においてこの過程を制御する因子や生理的意義については、これまでほとんど明らかにされていませんでした。
本研究では、リソソーム膜タンパク質LAMP2Bがミクロリポファジーの制御因子として機能することを明らかにしました。具体的には、in vitro結合実験により、LAMP2Bの細胞質領域とリン脂質のホスファチジン酸が結合することを明らかにしました。また、培養細胞を用いて、LAMP2BがLDの膜脂質との結合を介して、リソソームとLDの相互作用を促進し、LDのリソソームへの取り込みを仲介することを示しました。その結果として、トリアシルグリセロール (LDの主要構成成分)の加水分解が促進されることが確認されました。この加水分解はリソソーム内の酵素LIPAを介していることも示しました。また、この取り込みはESCRTに依存して起こることを明らかにしました。3D-CLEMを用いた解析では、LDがリソソームへ直接取り込まれる様子が観察され、このプロセスが実際に細胞内で起きていることを構造的に裏付けました。マウスを用いた解析では、LAMP2Bの過剰発現により高脂肪食誘導性の肥満、インスリン抵抗性、脂肪組織の炎症が抑制されました。さらに、肝臓でのリピドミクス解析からは、in vivoでトリアシルグリセロールの加水分解が亢進していることが示唆されました。
本研究は、LAMP2Bによるミクロリポファジーの分子機構とその病態生理的役割を明らかにしたものであり、肥満や関連疾患に対する新たな治療標的となる可能性を示唆するものです。

この研究は、2013年5月21日に株田室長が、LAMP2Bが膜脂質と結合することを発見したことをきっかけに、共同筆頭著者の相澤さんが着手しました。その後、もう一人の研究者を経て、私が2019年4月に本研究を引き継ぐこととなりました。着任当時は、前任者の方がLAMP2Bノックアウトマウスを解析されていましたが、明確な表現型は乏しく、LAMP2AやLAMP2Cによる機能代償が示唆されていました。そこで、私たちはLAMP2Bの過剰発現マウスを用いて治療効果の検証を行うことにしました。
私自身、もともとはタンパク質分解を専門としていたため、脂質代謝の研究には戸惑い、試行錯誤を重ねる日々が続きました。しかし、LAMP2Bを過剰発現させたマウスに高脂肪食を与えたところ、代謝指標が著しく回復した結果を得たときの興奮は、今でも鮮明に覚えています。また、2020年には3D-CLEM解析の挑戦を決意し、水島先生と本田先生にご相談させていただいた直後、SchulzeらがPNAS誌において、肝細胞における脂肪滴がリソソームによって直接取り込まれる電子顕微鏡画像 (TEM) を報告しました (CLEMは行われていない)。この報告で先を越された悔しさを感じる一方で、私たちが見出そうとしていた経路の存在が裏付けられたことに、大きな自信を得ました。その後、本田先生のご助力を得てCLEM解析を進めた結果、LDのリソソームへの直接取り込みを可視化することに成功し、大きな達成感と喜びを得ました。こうした経緯をへて、2025年5月21日、ついに論文が正式にアクセプトされたという知らせが届きました。最初の発見からちょうど12年の歳月をかけて、本研究を形にすることができました。

本研究は、国立精神・神経医療研究センターの株田室長のご指導のもと、李先生(リピドミクス解析)、本田先生(3D-CLEM)をはじめ、多くの共同研究者の皆様のご協力によって遂行されました。ご助言・ご支援を賜りました皆様に、深く御礼申し上げます。

なお、現在私は、日本医科大学 山本林研究室に所属し、研究を継続しております。リバイス期間中には、本研究に専念するにあたり、山本先生ならびに研究室の皆様に温かくご理解いただきましたこと、心より感謝申し上げます。