PubMedID 40957983
タイトル Phase separation promotes Atg8 lipidation and vesicle condensation for autophagy progression.
ジャーナル Nature structural & molecular biology 2025 Sep;.
著者 Fujioka Y, Tsuji T, Kotani T, Kumeta H, Kakuta C, Shimasaki J, Fujimoto T, Nakatogawa H, Noda NN
  • 相分離は、オートファジーの進行に向けてAtg8の脂質化と小胞の凝縮を促進する
  • Posted by 北海道大学遺伝子病制御研究所 藤岡優子
  • 投稿日 2025/09/18

先日掲載された私たちの論文を紹介させていただきます。東京科学大学の中戸川先生、小谷先生、順天堂大学の藤本先生らとの共同研究です。

オートファジーでは、新たに形成される二重膜のオルガネラ、すなわちオートファゴソームが中心的な役割を担います。このオートファゴソームはPASと呼ばれる構造から形成されると考えられており、その過程はオートファジーの中でも最も特徴的かつ本質的なものとされてきました。私たちは以前、オートファジー関連タンパク質(Atgタンパク質)が液-液相分離によって集積し、PASを形成することを報告しました。しかし、PAS液滴が具体的にどのように機能し、オートファゴソーム形成に寄与するのかは長らく謎のままでした。

今回私たちは、すべての主要なAtgタンパク質を高純度に精製し、それぞれのPAS液滴への濃縮度を調べました。その結果、数あるAtgタンパク質の中でもAtg12-Atg5-Atg16複合体がPAS液滴に最も効率的に濃縮されることが明らかになりました。この複合体は、オートファジーに必須の反応であるAtg8の脂質化を触媒するE3酵素として知られています。実際に、PAS液滴にE1、E2、E3酵素、ATP、そしてホスファチジルエタノールアミンを含む膜小胞(オートファゴソームの種として機能すると考えられているAtg9小胞を模倣した脂質組成をもつ)を加えると、Atg8の脂質化反応が液滴内で効率的に進行することが確認されました。さらに蛍光顕微鏡やレプリカ電子顕微鏡を用いた解析によって、PAS液滴表面に接触した膜小胞が、脂質化反応の進行に伴って液滴内部へ移行する様子も捉えることができました。

これらの知見から、PAS液滴は単なるタンパク質の集積場所ではなく、Atg8脂質化という鍵となる反応を集中させる「反応場」として機能し、さらにオートファゴソーム形成の起点となるAtg9小胞を取り込む仕組みを備えていることが示されました。オートファジー研究にとっては、オートファゴソーム新生の出発点を分子レベルで描き出した成果であり、相分離研究にとっては、液滴が分子の濃縮にとどまらず、膜小胞を巻き込みながら細胞機能を駆動する具体例を提示したものといえます。