PubMedID 40928057
タイトル Microautophagy: definition, classification, and the complexity of the underlying mechanisms.
ジャーナル Autophagy 2025 Sep;1-7.
著者 Sakai Y, Behrends C, Cuervo AM, Debnath J, Izumi M, Jenny A, Molinari M, Nakamura S, Oku M, Otegui MS, Santambrogio L, Shen HM, Taguchi T, Thumm M, Ushimaru T, Xie Z, Reggiori F
  • ミクロオートファジの定義と省略形
  • Posted by 京都先端科学大 バイオ環境学部・応用生命科学科、京都大学 総合生存学館 阪井 康能
  • 投稿日 2025/10/22

最近、Autophagy誌に掲載されたミクロオートファジーの総説について紹介します。

酵母 Komagataella phaffii(Pichia pastoris)でペキソファジーがミクロオートファジーにより起こることを実証してから30年が経とうとしています。近年になりようやくミクロオートファジーが注目されるようになってきましたが、未だに生物学・医学研究者であっても、ミクロオートファジーが何なのか、マクロオートファジーとの違いについて知らない方も多くおられます。また英語も日本語も、ミクロとマクロは文字では1字違い、口頭でもミクロか、マクロか、何度も聞き返すことがあったり、論文作成時でもミススペルが多く、一番、困るのは、論文査読時に、criticalなところで、明らかに間違っている部分などがあり、困惑していました。また日本人のみならず、欧米を含めた海外研究者でも、全てではないにしろ、同じような声を聞いていました。このようなことを背景に国内外のミクロオートファジー研究者に声をかけ、オンライン会議を開催し、17名のPI研究者を取りまとめReviewにしました。

ミクロオートファジーは、オートファゴソーム形成を伴わず、リソソームもしくは液胞が直接、ターゲットを取り囲んで分解するプロセスのこととして認識されています。また、近年、液胞・リソソームのみならず、エンドソームがターゲットを取り囲んだのち、酸性コンパートメントに運ばれて分解するendosomal microautophagyも明らかになり、その論文数も爆発的に増加しつつあります。ミクロとマクロは、膜ダイナミクスに形態学的に依拠した名称であり、カーゴサイズは関係ありません。例えば、私が見いだしたKomagataella phaffii のミクロペキソファジーでは、液胞が3−4個のペルオキシソームをまとめて囲い込むのに対して、マクロペキソファジーでは、ペルオキシソームを1つずつ取り囲み、ミクロとマクロが逆転しています。

オンライン会議では、ミクロとマクロの名称や、名称変更に関する議論から始め、最終的には、ミクロオートファジーもマクロオートファジーも、“umbrella name” として残したまま、 定義・分類・ミクロオートファジーと言うためのガイドラインを決めて、混乱を避けるために略称を統一しようということになりました。まず略号と省略系については、1つの論文の中で、microautophagyとmacroautophagyが混在する場合には、microautophagyは MI-autophagy(MI-オートファジー)、同様にMI-pexophagyなどと表記し、macroautophagyは省略しない、口頭では、MI-autophagyは “エム・アイ オートファジー”と発音して、マクロとの区別をわかりやすくすることを提唱しています。

分類については、カーゴを隔離するオルガネラによりvacuolar microautophagy (v-MI)、lysosomal microautophagy (l-MI)、endosomal microautophagy (e-MI)に分類。v-MIとl-MIについては、液胞・リソソームが、 protrusion するType 1 と invaginationするType 2に分類。また、マクロオートファジーにおけるCvt pathwayと同様に、ミクロオートファジー様経路が、分解が目的ではない場合もあり、このような場合には MI-related pathwayとして分類しました。詳細は論文の方をご参考ください。

一方、MI-オートファジーの分子機構については、ESCRTとATGが主な役者であることがわかってきてはいるものの、各MI-オートファジー経路により異なっており、現在でも、混沌とした状態です。現在、同著者により各MI-オートファジー経路の分子機構についてまとめた総説をとりまとめているところです。今回の定義と分類が、今後のMI-オートファジーの分子機構解明に向けての1つの指針になればと願っています。

余談ですが、この総説を取りまとめるにあたり17名の著者とやり取りをしていたのですが、この過程でも“ミクロ”と“マクロ”の取り違えは、この論文の中でも10箇所近くあり、PDFがオンラインに掲載されてからも、1箇所残っていました。“ミクロ”vs“マクロ”問題、かなり緩和はされたと思ってはいますが、まだまだ道半ばです。いつか統一的な分子機構からの解明と理解ができればと願っています。