PubMedID 24492518
タイトル Yeast and mammalian autophagosomes exhibit distinct phosphatidylinositol 3-phosphate asymmetries.
ジャーナル Nat Commun, 2014 Feb 4;3207,
著者 Cheng J, Fujita A, Yamamoto H, Tatematsu T, Kakuta S, Obara K, Ohsumi Y, Fujimoto T
  • オートファジー膜PI3Pの非対称性分布
  • Posted by 名古屋大学・大学院医学系研究科 藤本豊士
  • 投稿日 2014/02/05

大隅良典先生のグループとの共著で出版された私たちの論文を紹介します。

我々は膜脂質の分布をナノレベルで可視化できる電子顕微鏡法(急速凍結・凍結割断レプリカ標識法)を使って研究しています。今回の研究ではホスファチジルイノシトール3燐酸(PI3P)を高感度に標識する方法を新たに確立し、PI3P局在を検索しました。

その結果、酵母オートファゴソームでは、PI3Pが閉鎖空間側の膜葉(内外2枚の膜に挟まれた空間に面した側)にあり、細胞質側膜葉よりも高密度に存在することを見出しました。一方、哺乳類細胞オートファゴソームでは、PI3Pは細胞質側膜葉に限局しており、酵母とは逆の非対称性を示すことが分かりました。酵母オートファゴソームの非対称性は、細胞質の脱燐酸化酵素(YMR1, SJL3)を欠失させた株では見られず、もともと両膜葉にあったPI3Pのうち細胞質側膜葉のものが分解されることによって非対称性が生じたと推測されました。

上記の結果は、哺乳類細胞と酵母のオートファゴソーム形成過程に基本的な違いがあることを示唆しています。今後、閉鎖空間側の膜葉にPI3Pが生じるメカニズムを追究することによりオートファゴソーム膜形成の謎に迫りたいと考えています。

《蛇足》 我々の方法はPI3P以外の膜脂質解析にも非常に有用ですが(Takatori et al., Biochemistry 53, 639-653, 2014)、実際に施行できるラボはほとんどなく、私が現役の内に多くの人達に伝授したいと考えています。ラボへの参画はもとより、共同研究を兼ねた短期国内留学・派遣も歓迎します。  

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  • 質問
  • 東京大学大学院 医学系研究科 分子生物学分野  西村 多喜  2014/02/09

とても興味深い報告で、大変勉強になりました。GFP probeを発現させたものと異なり、今回の手法は内在性のPI3P分布を観測できるだけでなく、lumen側のPI3P分布も調べることができるという、素晴らしい手法だと思いました。

大変恐縮ですが、今回の論文に関して教えて頂きたいことが一つあります。

Live imaging解析(Koyama-Honda et al., Autophagy, Vol. 10, 1491-1499)では、動物細胞でもautophagosomeが成熟すると、WIPI1などのPI3P結合タンパク質がautophagosomeから外れるので、autophagosomeの成熟度に応じて、細胞質側のPI3P量が減少するような状況があっても良いような気がします。
つまり、もっとautophagosome PI3Pの分布(PF/EF ratio)がheterogenousでも良いと考えています。

今回の論文では、bafilomycin A1処理条件下、またはドミナントネガティブなAtg4 C78Aを発現させたsteady stateな状態を観察されていらっしゃいますが、通常の飢餓条件下などの観察などをされたことはありますか?

Autophagosomeの量が少なすぎて、観察が困難かもしれませんが、autophagosomeの成熟度に応じて違いがあれば、面白いかなと思います。unclosed なものとclosed なもの、またはperipheral regionかperinuclear regionかどうかなどで、PI3P分布(PF/EF ratio)に違いなどがあったりするのでしょうか?

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  • 質問への回答
  • 名古屋大学・大学院医学系研究科  藤本豊士  2014/02/10

質問ありがとうございました。尋ねて頂いた内容はどれも凍結割断レプリカ法にとって難しい(=労力がかかる)ところです。
1)哺乳類細胞の場合、酵母細胞に比べてautophagosomeを観察できる確率が非常に低かったので、bafilomycin A1処理やAtg4 C78A発現で出現頻度を高めて定量しました。単なる飢餓条件などでのautophagosomeの観察効率を高めるためには、何らかの工夫が必要です。都合のよい細胞種を選ぶ、凍結・割断条件の変更など、改善の余地はあると考えています。
2)成熟の度合い、細胞内の場所などによるPI3P分布の違いを見ることは次のステップとして重要な課題です。特に前者について、syntaxin17の標識が原理的に可能なので(レプリカ上に保持されるはずという意味)、これをマーカーとできれば隔離膜とautophagosomeの区別はできると思います。

以上ですが、もし不明点があったらまたお尋ねください。

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  • お礼
  • 東京大学大学院 医学系研究科 分子生物学分野  西村 多喜  2014/02/11

確かに、Syntaxin17なら良いマーカーになりそうですね。
私たちも現在、Syntaxin17がどのようにして成熟したautophagosomeを認識しているのか、その謎に取り組んでいるところなのですが、そのような観点からも非常に面白いところだと思います。

丁寧にご教示下さいまして、どうもありがとうございました。
大変勉強になりました。