PubMedID 25900611
タイトル Yeast nitrogen utilization in the phyllosphere during plant lifespan under regulation of autophagy.
ジャーナル Sci Rep, 2015;9719,
著者 Shiraishi K, Oku M, Kawaguchi K, Uchida D, Yurimoto H, Sakai Y
  • 宿主植物のライフサイクルに依存した葉上酵母の窒素源利用とオートファジー制御
  • Posted by 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻 白石晃將
  • 投稿日 2015/04/27

最近、アクセプトされた論文を紹介させていただきます。
 実験室とは異なり自然界の微生物は、過酷な環境で生き延びるために多くの戦略を持っていると考えられます。オートファジーがこのような微生物の自然界における生存戦略として重要な役割を担っていることがわかってきました。Cadida boidiniiは、1969年に当研究室で最初のメタノール資化性酵母として発見されました。胞子形成能のない本酵母がシロイヌナズナ葉上でメタノールを炭素源として利用して増殖すること、葉上メタノール濃度は日周変動しており、ペルオキシソームの発達とペキソファジーを毎日、繰り返しながら増殖し、オートファジーのみならずペキソファジーが葉上での増殖に重要であることを先の論文では明らかにしていました(Kawaguchi et al. (2011) PLoS ONE)。しかし、酵母を含め微生物にとって葉上での窒素源が何か、オートファジーがそれに、どのように関わっているのか、については全く知られていませんでした。
 本論文では、葉上に接種した本酵母を、定量PCR, RT-PCR、蛍光顕微鏡観察等によって増殖と遺伝子発現を追跡することにより、若い葉上では硝酸が、老化した葉上ではメチルアミンが本酵母の主要な窒素源であることを明らかにしました。このような宿主植物のライフステージに伴う窒素源の変化に着目し、硝酸代謝に必要な硝酸レダクターゼ(Ynr1)の細胞内局在を調べたところ、若い葉上では細胞質に、老化した葉上では細胞質内の何らかのコンパートメントに局在化している様子が観察されました。より詳細に調べるため、in vitroにおいて硝酸からメチルアミンへの窒素源変化に伴うYnr1の細胞内動態を追跡しました。その結果、窒素源変化後、酵素活性の低下、細胞内局在の変化に続き、Ynr1の分解が起こることがわかりました。さらに、Ynr1の分解におけるオートファジー経路を調べたところ、選択的オートファジー不能株であるatg11Δ株においてYnr1の分解を示すVenusの遊離バンドが消失すること、Cvt複合体の基質であるアミノペプチダーゼ1(Ape1)とYnr1が共局在することが明らかとなりました。従って本酵母は恒常的に観察されるCvt複合体に、硝酸からメチルアミンへの窒素源変化に伴ってYnr1を誘導的に積み荷としてのせて液胞へ運び、分解していることがわかりました。葉上における微生物の窒素源を初めて明らかにしただけではなく、自然界における選択的オートファジーの制御、さらに恒常的な生合成経路として知られていたCvt経路の分解経路としての新しい役割を示した点が重要な意味を持つものだと考えています。