PubMedID | 25923949 |
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タイトル | Atg8 is involved in endosomal and phagosomal acidification in the parasitic protist Entamoeba histolytica. |
ジャーナル | Cell Microbiol, 2015 Apr 29; [Epub ahead of print] |
著者 | Picazarri K, Nakada-Tsukui K, Tsuboi K, Miyamoto E, Watanabe N, Kawakami E, Nozaki T |
- 赤痢アメーバ原虫のAtg8はエンドソーム・ファゴソームの酸性化に関与する
- Posted by 国立感染症研究所 津久井久美子
- 投稿日 2015/05/08
最近アクセプトされた論文を紹介します。
赤痢アメーバ原虫のAtg8(EhAtg8)がエンドソーム、ファゴソームの酸性化に関与していることを示しました。
EhAtg8は実験室での培養条件下で細胞内の小胞に局在し、ウエスタンブロットでも脂質修飾と考えられるバンドシフトが見出されることから定常状態でなんらかの機能があることが予想されました。そこで遺伝子発現抑制株を樹立し、その表現型を解析したところ、エンドソーム、ファゴソームの酸性化が遅延することが分かりました。エンドソームはFITC-dextranの、ファゴソームはpHrodo-E. coliの取り込みで検討しました。さらにEhAtg8は初期の貪食胞へ局在することが見出され、閉鎖前のphagocytic cupにも動員されていました。リソソーム(lysotracker red 陽性コンパートメント)への局在はほとんど観察されないことから、外来物の取り込み初期にエンドソーム成熟に関わる分子の効果的な動員を促していると予想されました。今後、EhAtg8によって制御される分子の同定と解析を進めたいと考えています。
赤痢アメーバ原虫においてシスト(嚢子)を作ることが感染の伝播に重要です。しかし赤痢アメーバのシスト化の実験系は存在せず、その分子メカニズムに迫れずにいました。そこで本研究はダイナミックな細胞内分解系の解明が細胞分化のメカニズムの理解につながると考えて取り掛かりました。しかしフタをあけてみるとEhAtg8は定常状態でアクティブであり、その機能はストレス応答と言うよりハウスキーピングのようでした。赤痢アメーバ原虫はダイナミックな運動性と貪食活性を持ちます。顕微鏡で観察しているとその傍若無人な振る舞いに同じ真核生物とは思えない力強さや自由さを感じて飽きないものです。よってAtg8機能についても当初どれだけ自由に作り変えたのかと身構えたのですが、アレンジを加えてもリソソームに関連した機能を維持していました。これは真核生物の共通祖先ですでにAtg8周囲の分子メカニズムが「分解」へ向かっていたことを示唆していると思います。最近では飢餓応答以外の機能がもてはやされるAtg8ですが、多様な生物での解析から分子メカニズムの本質が見えてくればと思います。お時間ありましたらお目通しください。