PubMedID 27340123
タイトル Autophagosome-lysosome fusion in neurons requires INPP5E, a protein associated with Joubert?syndrome.
ジャーナル EMBO J, 2016 Jun 23; [Epub ahead of print]
著者 Hasegawa J, Iwamoto R, Otomo T, Nezu A, Hamasaki M, Yoshimori T
  • INPP5Eはオートファゴソームとリソソームの融合を制御している
  • Posted by 大阪大学大学院生命機能研究科 長谷川 純矢
  • 投稿日 2016/07/05

最近受理された私たちの論文を紹介いたします。

イノシトールリン脂質(PIPs)は細胞運動、シグナル伝達及びメンブレントラフィックなどに重要な役割を担っています。また、イノシトール環に受けるリン酸基の位置と数により7つの分子種が存在し、それぞれ性質が異なります。これまでの知見では、Vps34により生成されるPI3Pがオートファゴソーム形成に重要であるとは知られていたものの、他のPIPsとオートファジーとの関係はあまり理解されていませんでした。そこで、私たちはPIPsを時空間的に制御している脱リン酸化酵素のsiRNAスクリーニングを行い、INPP5Eという5位の脱リン酸化酵素がオートファジーに関わっていることを見出しました。
神経細胞株でINPP5Eをノックダウンすると、LC3ドットの蓄積及びオートファジーフラックスの抑制が認められました。一方で、リソソーム活性には顕著な影響がなく、LC3ドットとリソソームとの共局在率が低下していることから、INPP5Eはオートファゴソームとリソソームの融合に関与していることが示されました。さらに、INPP5E自身、PI(3,5)P2のプローブ共にリソソームに局在すること、INPP5EノックダウンでPI(3,5)P2プローブの蛍光強度が上昇することなどから、INPP5Eはリソソーム上でPI(3,5)P2からPI(3)Pへ変換することで、オートファゴソームとリソソームの融合過程を制御していることが強く示唆されました。
それでは、その下流のメカニズムはどうなっているのでしょうか?最近、リソソームのPI(3,5)P2がCortactinというアクチンの重合に関与しているタンパク質のリソソームへの局在を制御していること、PI(3,5)P2がCortactionのアクチン重合活性を阻害していることが報告されました(J Cell Biol. 210: 753-769, 2015)。また、Cortactinのノックダウンでオートファゴソームとリソソームの融合が抑制された(tfLC3でのみの観察ですが)ということも別のグループから報告されています(EMBO J. 29: 969-980, 2010)。それらの知見をもとに、Cortactionの関与を調べたところ、INPP5Eノックダウンでリン酸化(活性化型)Cortaction及びF-actinのリソソーム局在が減少していることを見出しました。
また、INPP5Eは小脳や脳幹に異常をきたし過呼吸及び運動失調を引き起こすジュベール症候群の原因遺伝子として同定されています(Nat Genet. 41: 1032-1036, 2009)。本疾患の原因まだ十分に理解が進んでいないのが現状です。そこで、ジュベール症候群の患者で見出されたINPP5Eの変異において、オートファジーへの影響を検討した結果、約半分程度にまでオートファジー活性は減弱していました。

以上のことから、INPP5Eはリソソーム上でPI(3,5)P2からPI(3)Pと変換することで、Cortactin-actinのマシナリーを介して、オートファゴソームとリソソームの融合を制御していると考えられました。また重要なことに、ジュベール症候群の発症にオートファジーの抑制が関わっていることも強く示唆されました。しかしながら、まだ分子メカニズムの解明が不十分であり、Cortactin-actin系がどのようにしてそれらの融合に関わっているのかは、今後の課題ではないかと思います。