PubMedID 27345495
タイトル p62/Sqstm1 promotes malignancy of HCV-positive hepatocellular carcinoma through Nrf2-dependent metabolic reprogramming.
ジャーナル Nat Commun, 2016;12030,
著者 Saito T, Ichimura Y, Taguchi K, Suzuki T, Mizushima T, Takagi K, Hirose Y, Nagahashi M, Iso T, Fukutomi T, Ohishi M, Endo K, Uemura T, Nishito Y, Okuda S, Obata M, Kouno T, Imamura R, Tada Y, Obata R, Yasuda D, Takahashi K, Fujimura T, Pi J, Lee MS, Ueno T, Ohe T, Mashino T, Wakai T, Kojima H, Okabe T, Nagano T, Motohashi H, Waguri S, Soga T, Yamamoto M, Tanaka K, Komatsu M
  • p62/Sqstm1はNrf2依存的代謝再編成により肝細胞がんの悪性化をもたらす
  • Posted by 新潟大学大学院医歯学総合研究科 齊藤哲也
  • 投稿日 2016/07/13

最近、受理された私たちの論文について紹介します。
p62/SQSTM1(以降はp62と省略)は、細胞生存、細胞増殖、そして細胞死に関与する多機能タンパク質であり、オートファジーによりその量的制御を受けています。一方、私たちはp62による酸化ストレス応答機構Keap1−Nrf2経路の制御機構を見つけました(Komatsu et al., NCB 2010)。この経路では、p62の349番目のセリン残基がリン酸化されると転写因子Nrf2の抑制タンパク質であるKeap1が不活化し、Nrf2の標的遺伝子である抗酸化タンパク質、解毒酵素群の遺伝子発現が誘導されます(Ichimura et al., Mol. Cell 2013)。このp62−Keap1−Nrf2経路は、正常細胞では選択的オートファジー起動時に一過的に活性化するのに対し、肝細胞がんでは恒常的に活性化しており、それが腫瘍の増殖に寄与します。しかし、如何にして腫瘍増殖に寄与するのかは不明のままでした。2012年に、PI3K-Akt経路が活性化されている肺がん細胞において、恒常的なNrf2の活性化がグルコースおよびグルタミン代謝に関わる律速酵素の遺伝子発現を正に制御し、プリンヌクレオチドやグルタチオンの合成経路、そしてグルタミノリシスを亢進させることが明らかになりました(Mitsuishi et al., Cancer Cell 2012)。今回、ヒト肝細胞がん株、リン酸化p62を蓄積し肝腫瘍を形成する肝臓特異的Atg7欠損マウス、そして肝細胞がん患者検体を用いた解析により以下のことを明らかにしました。
1. 肝細胞がん細胞におけるリン酸化p62を介したNrf2の活性化は、グルコースからUDP-グルクロン酸の合成、およびグルタミンからグルタチオン合成を促進させた。
2. 薬剤抱合に関与するUDP-グルクロン酸およびグルタチオンの産生亢進により、リン酸化p62を持つ肝細胞がん細胞は抗がん剤耐性能を獲得した。グルタチオンの産生亢進は、腫瘍の増殖を促進させた。
3. 肝臓特異的Atg7欠損マウス肝臓において、腫瘍形成以前にプリンヌクレオチド合成やグルタチオン合成促進などの代謝変化が確認され、それはNrf2の同時欠損により完全に戻った。
4. C型肝炎ウイルス陽性のHCC患者において、顕著なリン酸化p62の蓄積が認められた。
5. リン酸化p62によるNrf2活性化を防ぐ新規化合物K67を同定し、K67が肝細胞がん細胞の増殖を抑制するとともに、既存の抗がん剤の薬効を高めることを確認した。

近年、膵臓がんをはじめとした難治性のがんに対して抗がん剤とオートファジー阻害剤(正確にはクロロキンないしはヒドロキシクロロキンなどのリソソーム酸性化阻害剤)の併用による臨床試験が進められています。しかし、オートファジーの抑制による抗がん作用は複雑です。実際、マウスの膵菅腺がんモデルにおいては、p53の欠失(ヒト膵菅腺がんでは一般的)によりオートファジーの抑制が腫瘍増殖を促進することが報告されています(Rosenfeldt et al., Nature 2013)。これはp53欠失およびオートファジー抑制を介したNrf2活性化による同化経路の促進により説明ができると考えています。このことは、オートファジー抑制を基盤とした抗がん剤治療の臨床試験において、p53やNrf2シグナルなどがん代謝に関わる遺伝子変異について考慮する必要性を意味します。