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カルパインは細胞質内にあって、基質タンパク質と直接相互作用しながら、基質を特異的かつ限定的に切断することで、基質の活性・構造・局在・寿命などを変換・調節(モジュレート)するCa2+-要求性の「モジュレータ・プロテアーゼ」です(図参照)。ヒトでは14の遺伝子にコードされ、うち7種で、その変異が疾患・致死を引き起こします。酵母、植物、線虫等でもカルパイン変異による病態が報告され、カルパインがヒトをはじめ様々な生物の正常な生命維持に必須な酵素であることが明確となってきました。
一方で、カルパインの基質認識・活性化機構については不明な点が多く、なぜカルパイン不全で生体に不具合が生じるのかについては未だ五里霧中です。ヒトのカルパイン不全による疾患には筋ジストロフィー、糖尿病などが含まれ、カルパインを標的とした診断?・治療の可能性に期待が高まっています。そこで本研究では、カルパインの作用機序を個体、細胞、in vitroの各レベルから解析し、カルパイン不全による生体システム破綻のメカニズムを明確にし、カルパイン不全による疾患の克服に寄与するとともに、カルパインが生体をモジュレーションする分子機構を明らかにすることを目的としています。
そこで重要なのは、カルパインが特定の基質を特異的に切断する仕組みの解明であり、(1)Scaffold(膜系や土台タンパク質などからなる切断の場)、(2)Recognition(カルパイン分子自体の構造変化による基質特異性)、及び(3)Activation(Ca2+や活性化タンパク質による活性の時空間的制御)の3点について分子レベルで解析を行います。
本研究では、特に私たちが以前から研究を重ねてきた、骨格筋特異的カルパインp94/Calpain 3、胃腸特異的カルパインnCL-2/Calpain 8及びnCL-4/Calpain 9、そして線虫性決定遺伝子の2つの哺乳類ホモログhTRA-3/Calpain 5及びCANPX/Calpain 6に注目し、筋肉・胃腸の機能に焦点を当てて解析をします。p94、nCL-2及びnCL-4については、遺伝子改変マウスを作出し、あるいはその予定であり、変異マウス及びその交配種を用いた遺伝学的解析を、正常個体との生化学的、細胞生物学的比較解析と並行することで、カルパインのプロテアーゼ活性に焦点を当てた解析を行なっていきたいと考えています(図参照)。
hTRA-3及びCANPXについては、北海道大学の川原裕之博士らが見出した線虫カルパインTRA-3に関する大変興味深い知見、即ち、「ユビキチン-プロテアソーム系とのクロストーク」に注目し、密接な共同研究により解析を進めていきます。カルパイン系、ユビキチン-プロテアソーム系、及びオートファジー-リソソーム系の連携については、筋肉の系をはじめいくつかの傍証が報告されてきており(図参照)、今後の新しく重要な流れの一つとなると考えられます。その中で、TRA-3の系における発見は、新しい概念を形成しうる極めて重要なものであり、その研究は、今後さらに大きく発展すると考えられます。