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東京大学 分子細胞生物学研究所
生体超高分子研究分野 准教授
前田 達哉
本研究課題は、酵母カルパインホモログCpl1の活性制御機構を明らかにしようとするものである。Cpl1は、環境のアルカリpHに応答して転写因子Rim101をプロテオリシスし、それにより活性化されたRim101がアルカリ適応的転写プログラムを誘導するという経路(Rim101経路)で機能している。我々は本経路が、上流でアルカリ刺激を検知するセンサー部と、下流でRim101を限定分解するプロテアーゼ複合体部とから構成されることを示してきた。プロテアーゼ複合体部の構成因子は、カルパインホモログCpl1、基質認識タンパク質Rim20に加え、エンドソーム・ソーティングの担い手であるESCRT-V複合体の構成因子でもあるSnf7である。このエンドソーム・ソーティングの最終過程の欠損変異株では、エンドソーム膜上でSnf7-Vps20複合体が蓄積することに伴い、Rim101のプロセシングが酸性条件下でも恒常的に起こるようになることから、蓄積したSnf7-Vps20複合体を核に活性プロテアーゼ複合体が形成されるというモデルを提案した。
そこで、プロテアーゼ複合体がどこで形成されるか、アルカリ条件により複合体形成が促進されるか否かを明らかにすると共に、精製した複合体により実際にRim101をプロセシングするin vitroの系を構築し、生化学的手法を用いて活性制御機構に迫りたい。
「門前の小僧 習わぬ経を読む」という具合に始めた酵母カルパインの研究でしたが、ユビキチン化、エンドソーム・ソーティングとの関連が明らかになって、プロテオリシスの三題噺のように展開しつつあります。また、この経路上流の制御機構が、予期せぬことに、私たちのもう一つの研究テーマであるTOR経路制御機構に通じるものであることに気がついて、不思議な因縁を感じています。