成体神経前駆細胞におけるベータカテニン分解制御の意義
名古屋市立大学 大学院医学研究科
再生医学分野 教授
澤本 和延
脳に存在する神経細胞の大部分は胎生期または生後の初期に産生される。しかし、近年の研究によって、成体の脳においても神経幹細胞から活発な神経細胞の産生が継続しており、実際に成人の脳においても新しい神経細胞が作られていることが証明された。我々は、マウス成体脳の脳室下帯という部分で起こる神経細胞新生の様々なメカニズムを解析している。最近、 -cateninタンパク質の核内への蓄積が脳室下帯の神経幹細胞・前駆細胞において特異的に起こり、これらの細胞の増殖を促進する作用があることを見いだした。 -catenin蛋白質の分解制御がWntシグナルの伝達において重要であることは良く知られているが、その成体脳における制御機構と意義については不明である。そこで本研究は、成体脳室下帯の神経幹細胞の分化過程における -cateninタンパク質の分解制御の動態と意義をタンパク質・細胞・個体レベルで明らかにし、蛋白質分解系の生物学的役割の理解に貢献することを目的とする。タンパク質分解制御により神経前駆細胞の増殖がコントロールできるようになれば、脳の再生医療にも役立つ可能性がある。
本研究課題に関連する代表的論文3報
- Adachi, K., Mirzadeh, Z., Sakaguchi, M., Yamashita, T., Nikolcheva, T., Gotoh, Y., Peltz, G., Gong, L., Kawase, T., Alvarez-Buylla, A., Okano, H., and Sawamoto, K. (2007)
b-catenin signaling promotes proliferation of progenitor cells in the adult mouse subventricular zone. Stem Cells 25, 2827-2836.
- Yamashita, T., Ninomiya, M., Hernandez Acosta, P., Garcia-Verdugo, J. M., Sunabori, T., Sakaguchi, M., Adachi, K., Kojima, T., Hirota, Y., Kawase, T., Araki, N., Abe, K., Okano, H., and Sawamoto, K. (2006) Subventricular zone-derived neuroblasts migrate and differentiate into mature neurons in the post-stroke adult striatum. J Neurosci 26, 6627-6636.
- Sawamoto, K., Wichterle, H., Gonzalez-Perez, O., Cholfin, J. A., Yamada, M., Spassky, N., Murcia, N. S., Garcia-Verdugo, J. M., Marin, O., Rubenstein, J. L., Tessier-Lavigne, M., Okano, H., and Alvarez-Buylla, A. (2006) New neurons follow the flow of cerebrospinal fluid in the adult brain. Science 311, 629-632.
ひと言!
成体脳室下帯は、成熟個体の脳における細胞の動的な増殖・分化・移動・生存および障害後の再生過程を研究する良いモデルです。この系にはb-catenin以外にも様々なタンパク質分解が関与している可能性があるので、班員の先生方との交流により新たな共同研究が生まれることを期待しています。
Web page
http://k-sawamoto.com/
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