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東京大学
大学院理学系研究科
生物化学専攻
神経機能生化学研究室
教授
深田 吉孝
約1日周期の生物リズムを生み出す概日時計は、生物に普遍的かつ重要な生理機能として注目されている。この分子時計機構には、時計遺伝子とその産物である時計タンパク質が中心的な役割を果たしているが、過去10年の研究では時計遺伝子の転写制御が熱狂的に解析されてきた。しかし、時計遺伝子の転写のONとOFFだけでは分子リズムは形成されず、時計分子活性が概日変動するためには、時刻制御された時計タンパク質の分解が極めて重要なステップとなる。私達はこれまでに、時計タンパク質の多段階リン酸化が重要な分解シグナルとなることを明らかにした。本研究では、時計タンパク質のリン酸化依存的な分解の分子解析を通じて、概日リズム形成におけるタンパク質分解の重要性に迫りたい。
時計遺伝子の発現リズムの中で中心的な役割を果たすCRY2は、E-boxを介した時計遺伝子の転写活性化を強力に抑制する負の制御因子である。私達は、CRY2が複数のキナーゼによる多段階リン酸化によってプロテアソーム依存的に分解されることを見出した。本研究では、このCRY2の分解制御とその役割を検証するため、CRY2と相互作用する分解制御分子を探索すると共に、CRY2の分解に異常を示す変異マウスの行動リズム解析を目指す。一方、正の転写因子であるCLOCKとBMAL1もリズミックに多リン酸化されるが、過リン酸化されたCLOCKはプロテアソームで分解される。本研究では、これら正の制御因子の分解が概日性転写を正と負に制御する分子機構に迫りたい。
約一日周期のサーカディアンリズムを制御する概日時計の研究分野において、時計タンパク質の分解制御メカニズムとその意義の解明を通して、タンパク質分解の多彩な制御とその生理的意義の理解に貢献したいと思います。私達が特に注目しているのは、標的タンパク質を分解に導くタンパク質リン酸化とその制御機構です。また、時計タンパク質の分解は、数時間をかけて非常にゆっくり、かつ正確に進行するというユニークな特性を示します。このような分解プロセスには、厳密にコントロールされた分解遅延機構が潜んでいるのではないかと考えています。本研究班において、タンパク質分解の専門の方々から多くの事を学ばせていただけることを楽しみにしております。