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蛋白質分解による時空間的リン酸化シグナル制御機構の解明

写真:反町洋之

東京大学
大学院薬学系研究科
細胞情報学教室
教授
松沢 厚

数少ない限定されたシグナル伝達経路のみで生物が多様で複雑な応答を示す仕組みは良く分かっていません。最近我々は、TNF受容体ファミリーのCD40受容体に結合するシグナル分子複合体中でリン酸化・ユビキチン化が連鎖的に引き起こされ、それに続くタンパク質分解が、シグナル複合体の細胞質移行を介した時間的・空間的なシグナル伝達制御を可能とすることを見出しました。このタンパク質分解を介した時間的・空間的シグナル伝達制御が多様な細胞応答を生み出す原動力であると考えられ、そのシステムの全容解明を行うことで、リン酸化・ユビキチン化を個々に捉えるのではなく、連鎖的に起こるリン酸化・ユビキチン化の複数の修飾の統合的な理解が可能となると思われます。本研究では、ユビキチン化を介したタンパク質分解による「シグナルのタイミングと場の振り分け」という新たな生体情報伝達システムの概念を提言したいと考えています。そのためにまず、CD40受容体や同様なシステムを持つ受容体を対象として、連鎖的に起こるリン酸化・ユビキチン化酵素の活性化のメカニズムについて詳細に解析を行います。最終的には、K48やK63ユビキチン化のような異なる結合型の修飾の連鎖の意味も含め、タンパク質分解を介したシグナルの時空間的制御機構の生理的意義について明らかにしたいと思っています。

本研究課題に関連する代表的論文3報

  1. Matsuzawa, A., Tseng, P. H., Vallabhapurapu, S., Luo, J. L., Zhang, W., Wang, H., Vignali, D. A., Gallagher, E., Karin, M. Essential Cytoplasmic Translocation of a Cytokine Receptor-Assembled Signaling Complex. Science, 321, 663-668 (2008).
  2. Vallabhapurapu, S., Matsuzawa, A., Zhang, W., Tseng, P. H., Keats, J. J., Wang, H., Vignali, D. A., Bergsagel, P. L., Karin, M. Nonredundant and complementary functions of TRAF2 and TRAF3 in a ubiquitination cascade that activates NIK-dependent alternative NF-kB signaling. Nat. Immunol., 9, 364-370 (2008).
  3. Nishitoh, H., Kadowaki, H., Nagai, A., Maruyama, T., Yokota, T., Fukutomi, H., Noguchi, T., Matsuzawa, A., Takeda, K., Ichijo, H. ALS-linked mutant SOD1 induces ER stress- and ASK1-dependent motor neuron death by targeting Derlin-1. Genes Dev., 22, 1451-1464 (2008).

ひと言!

我々が想像する以上に、リン酸化シグナルの制御機構にはユビキチン化を介したタンパク質分解が深く関わっていると考えています。リン酸化によるユビキチン関連酵素の活性制御やユビキチン化によるキナーゼ活性制御といった個々の事象ではなく、リン酸化・ユビキチン化が順序良く連続的に起こることで、シグナルの活性化のタイミングや細胞内での局在が微妙に調節されています。生体はそのような精緻な調節の仕組みを予め備えている必然性があるはずであり、その本質を明らかにできればと思っています。

Web page

http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~toxicol/index.html

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